電荷保存則

Prerequisite

この節ではいわゆる連続の式を議論する.
連続の式は電磁気学だでなく連続体力学(剛体,弾性体,流体の力学)や量子力学,場の理論などの広がったものを対象とする分野で重要な意味を持つ.

容器内の水の流出入

たとえば三次元の容器に水が入っているとする.
容器内の水の総質量は水の密度函数に対し容器上の体積積分を実行すれば求められる.
もし容器の外部から(蛇口など)水が流入する,あるいは容器の外部へ(排水口など)流出する場合,容器内の水の総質量は時間的に変動する.
容器内の水の総量の時間変動を調べるには単位時間あたりの流出入量を調べれば良い.
容器の表面に着目し,水流密度函数(単位時間・面積あたりに流入する水量,流出の場合は負)を積分すれば良い.
よっておおざっぱに次の関係式を得る:

(ある体積内の物質量の総和の時間変化) = (その表面上での物質量の流れの総和) .

上は水の例だが,任意の物質の質量に関して上記は成り立つ.

では質量保存則の定式化をしよう.
ある物質の密度は一様ではなく時間にも依存するとして時間と位置の函数 \rho_m(t,\boldsymbol{x})  とする.
物質は流れていて速度を持っている.
そこである時間 t  に,位置 \boldsymbol{x}  にある物質の速度を \boldsymbol{v}(t,\boldsymbol{x})  とする.
質点の力学では速度は質点に付随するベクトル量であるが,広がりを持った対象に対しては空間上で定義されたベクトル場であり速度場という.
たとえば質点の速度は \boldsymbol{v}(t,\boldsymbol{x}) =\dot{\boldsymbol{r}}(t)\delta^{(3)}(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{r}(t))  とかける( \boldsymbol{r}  は質点の位置ベクトルであり, \boldsymbol{x}  は速度の観測点という区別に注意せよ).
速度場の一般論は流体力学の章で述べる.

微小面要素における流出量

ある三次元領域 V  に含まれる物質の全質量は

とかける.
全質量は一般に時間の函数である.
その時間変化は領域 V  を固定して

他方で全質量の変化は領域 V  の境界 \partial V  での物質の流出入の総和である.
微小な面要素 \mathrm{d} S  に着目すると,微小時間 \mathrm{d} t  の間にこの面を通過して V  の外へ流出する物質の量は \rho_m\boldsymbol{v}\cdot\boldsymbol{n}\mathrm{d} t\mathrm{d} S
\boldsymbol{n}  \mathrm{d} S  の法線ベクトルで V  の外向きを正とする.
これと垂直な方向の物質の移動では V  の外部へは出ない.
\partial V  にわたって総和を取れば \mathrm{d} t  の間の流出量を

と求められる.
ここで \boldsymbol{j}_m:=\rho_m\boldsymbol{v}  は質量の流れ(または運動量密度)である.
これを \mathrm{d} t  で割ったものは単位時間あたりの M  の減少量に等しいので,符号に注意して

が成立する.

以上から

右辺についてGaussの定理を適用すれば局所的に

を得る.
これを質量保存則という.
つまり領域 V  内の全質量は(物質の湧き出しや消滅ではなく)必ず流出入のみによって時間変化することを示している.

質量と全く同じ議論を電荷密度 \rho  に適用できる.
この場合 \boldsymbol{j}:=\rho\boldsymbol{v}  は電荷の流れであり電流密度 (current density) という.
この2つの量に対して

電荷保存則

が成り立ち,こちらを電荷保存則という.
電荷保存則は領域 V  内の全電荷

が流出入のみにより変動することを示す.

なんらかの物理量の密度 \rho  とその流れ \boldsymbol{j}  に対して,湧き出しや消滅がないときには上のような保存則が成り立つ.
これを一般に連続の式 (equation of continuity) という.
連続の式については場の解析力学の章で改めて議論する.

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