統計力学の基礎

Introduction

この章では統計力学の導入を行う.
統計力学を標語的に言うと,ミクロとマクロをつなぐ理論である.
自然界に存在する物質は膨大な数のミクロな分子から構成される.
このようなミクロな系の自由度から数個のマクロな自由度を取り出すための手法を与える.
また膨大な自由度から数個の自由度に還元する手法は,分子のみならずたとえば砂や微生物,動物の群や人間の集団,経済活動などにも適用できることがある.

統計力学では主に確率と統計学を使って物理系を議論する.
まず統計力学の導入では簡単なモデルでどのようにミクロな理論とマクロな理論が結びつくのかを見る.

離散的な確率変数連続的な確率変数では確率論を簡単に紹介する[1,5].
確率の扱いは量子論でも同じである.

Stirlingの公式では膨大な自由度の物理量の計算で有用なStirlingの公式を紹介する.

Maxwell分布では確率分布を相対性原理などから導く.

統計力学的エントロピーでは熱平衡状態の典型性を仮定して確率論を力学の系に導入する[1,2,3].
ここではエルゴード仮説には触れない.
また確率分布とエントロピーを結びつける公式を導出する.

ミクロカノニカル分布カノニカル分布グランドカノニカル分布では物理でよく用いられる3つの確率分布函数を紹介する[1,3,4].
カノニカル分布などにおける実際の期待値の計算は次の章に委ねる.

二準位系では1つの自由度のとりうる値が2つだけの簡単なモデルを考える[1,3].
二準位系は磁性体のモデルとしても重要であり,相転移の章で再度触れる.

Reference

統計力学の良い入門書を筆者はいまのところ知らない.
最もそれに近いものとしては
[1] 田崎晴明,『統計力学I (新物理学シリーズ) 』,(培風館,2008). >>> Amazon
[2] 田崎晴明,『統計力学II (新物理学シリーズ) 』,(培風館,2008). >>> Amazon
がある.

熱力学を含めて統計力学の非常にたくさんのトピックを以って論じているものとして
[3] L. D. Landau and E. M. Lifshitz, “Statistical Physics 3rd Edition”, (Butterworth-Heinemann, 1980). >>> Amazon
がある.

網羅的な演習書として
[4] 久保亮五,『大学演習 熱学・統計力学〔修訂版〕』,(裳華房,1998). >>> Amazon

確率論については数学では測度論に基づいて議論されるが物理学で測度を意識することはまずない.
物理での確率論を紹介したものとして
[5] A. Lawrence, “Probability in Physics – An Introductory Guide”, (Springer, 2019). >>> Amazon
がある.