Stirlingの公式

Prerequisite

統計力学ではしばしば N!  という因子が現れる.
N  は非常に大きい数なので,そのような大きい数の階乗はさらに大きな数となる.
階乗はそのままの形ではあつかいにくいので,以下で紹介するStirlingの公式を用いて指数函数の形に近似的に書き換えることが多い.

たとえば階乗の扱いにくい点は N  が非常に大きいからといって (N+1)!  N!  で近似することはできないことである.
実際この2つの量の比は (N+1)!/N!\sim N  であるから非常に大きい.
このような場合にもStirlingの式が有効となる.

では実際に導出する.階乗はガンマ函数を用いて,

と表すことができる.
これを少し書き換えて,

としよう.
ここで f(y)=-y+\ln y  である.
f  f(1)=-1,\,f'(1)=0  y=1  で最大値を持つので y=1+z  とおいてTaylor展開すれば,

そこで x=N(1+z)  を変数変換と思って展開の式を代入すると,

さらに変数変換 \sqrt{N}z=t  を行えば

N\gg1  を仮定しており,被積分函数は負の側で指数函数的に減衰しているので -\sqrt{N}\to-\infty  としてもその影響は小さい.
また t^3  以降の項は 1/\sqrt{N}  の因子により抑えられるので無視できる.
以上の近似によって積分は単なるGauss積分になり \sqrt{2\pi}  を返す.
したがって N\gg1  のとき漸近的に,

Stirlingの公式

が成立する.
この近似式をStirlingの公式という.
具体的な値を列挙しておくと,Stirlingの公式は N  が小さくてもそれなりに精度が良いことがわかる:

Stirlingの公式の補正項を一般に導出してみよう.
そのために上の近似をもう一度眺めてみると結局のことろ積分について,

という近似をしている.
ただし x=N(1+z)
他方で変数変換

を考えると,

と変形される.
Jacobian, \mathrm{d} x/\mathrm{d} t  がStirlingの公式に対する補正項を与えると期待される.
たとえばjacobianを t  の冪で展開して奇数次は落ち,偶数次 t^{2k}  ならばGauss積分の公式により \mathcal{O}(N^{-k+1/2})  のオーダーの補正項を与える( k=0  はStirlingの公式そのもの).

ではJacobianを求めるために再び変数変換 x=N(1+z)  をすると

さらに x  から t  への変数変換の式は

となる.
この両辺を t  で微分すると

すなわち

という関係が導かれる.
z=z(t)  t  について冪展開して各係数を

とおく.
ただし t=0  のとき z=0  なので \xi_0=0  である.
これを z  t  の関係式に代入すれば

2行目から3行目へは k=n+m-1  を固定して n  を動かす和に取り替えて t  の冪ごとの和にした.
t  の各冪の係数を比較すれば系数 \xi_n  が逐次求められる.
t  については \xi_1^2=1  だが \xi_1  はStirlingの公式を与えるように符号を選んで \xi_1=1
k\geq2  については

の関係式から求める.
たとえば k=2,3,4,5  からは

となるから \xi_2=2/3,\,\xi_3=1/6,\,\xi_4=-4/45,\,\xi_5 = 1/36  と求まる.

以上から

奇数次は 0  であり,偶数次ではGauss積分の公式

を適用すれば,

を得る.

N  を絶対値の大きい複素数 z  へ拡張することでガンマ函数の漸近展開 (asymptotic expansion) を得ることができる.
すなわち上の結果からガンマ函数の漸近展開は2次までで

と与えられる.
ただし z  は複素平面全体から負の整数 -1,\,-2,\,\cdots  を取り除いた集合に値をとる.
また \Gamma(N+1)=N!  に注意せよ.

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