相転移の熱力学

Introduction

この章では相転移の導入を行う.
相転移のより正確な議論は統計力学の章で触れることになるが,ここでは熱力学の範囲で相転移現象を記述する.

相平衡では相という概念を導入し,相がどのようなものであるかを議論する[1,6].

相転移では相の間の遷移である相転移の基礎事項について紹介する[1,4,7].

van der Waals理論強磁性転移のLandau理論では相転移の最も簡単な2つのモデルについて議論する[1,2,3].
特にLandau理論は系の対称性に基づく普遍的な議論であり,この後さまざまな系の相転移現象へと応用されていく.

臨界現象; 強磁性Landau理論臨界現象; van der Waals理論では上記2つのモデルの臨界点における物理量について調べる[1,4,5].
結果的にこの2つのモデルは同じ臨界指数で記述される.
このような普遍性は臨界現象の著しい特徴で,くりこみ群などを用いた議論により深淵な物理的内容を含んでいることが明らかになっている.
特に相転移現象や臨界現象の理論は統計力学の成果であるが,南部—Lasinio理論に代表されるような核子や素粒子における対称性の自発的破れやHiggs機構,インフレーション宇宙論などに応用される.

Reference

相平衡や相転移について熱力学の観点から包括的にまとめた教科書は少ない.
相転移に関してはやや記述が古いが

[1] L. D. Landau and E. M. Lifshitz, “Statistical Physics 3rd Edition”, (Butterworth-Heinemann, 1980).>>> Amazon

は名著である.
また強磁性Landau理論に関しては

[2] 田崎晴明,『熱力学―現代的な視点から』,(培風館,2000). >>> Amazon

が丁寧に解説している.

他に以下を参考にした:

[3] 田崎晴明,『統計力学II (新物理学シリーズ) 』,(培風館,2008). >>> Amazon
[4] U. C. Täuber, “Critical Dynamics: A Field Theory Approach to Equilibrium and Non-Equilibrium Scaling Behavior”, (Cambridge University Press, 2014). >>> Amazon
[5] Yu. B. Rumer, M. Sh. Ryvkin, “Thermodynamics Statistical Physics and Kinetics“, (Mir Publishers, 1980).
[6] 宮下精二,『基幹講座 物理学 熱力学』,(東京図書,2019).>>> Amazon
[7] 宮崎州正,『<講義ノート>ガラス転移の統計物理(第60回物性若手夏の学校講義ノート)』,(物性研究・電子版 編集委員会,2015)