一次元束縛状態の性質

この節では一次元の束縛状態を考えてみよう.
束縛状態とは粒子の運動が有界であるような状態のことである.
古典的には束縛状態はポテンシャルが下に凸であれば必ず存在する.
エネルギーとポテンシャルが等しくなり E=V(x)  である点で粒子は速度が 0  となり運動の向きを変えるためである(転回点).

古典論的な束縛状態

前節で見たように自由粒子の場合はエネルギー固有状態の波動函数が規格化できず確率解釈ができなかった.
では逆にエネルギー固有状態に規格化条件

を課してみよう.
エネルギー固有状態で規格化条件を課されたもののうちエネルギー固有値一定の直線が(古典論と同じように)ポテンシャル V(x)  で挟まれるとき量子論における束縛状態 (bounded state) という.
古典論の束縛状態と一致しないことは後の節で見ていく.
特に量子論では有限の高さのポテンシャルの壁があってもそれをすりぬけることがありうる.

一次元束縛状態には縮退は存在しないことが示せる.
一次元束縛状態で縮退があると仮定する.
つまり異なる固有函数 \psi^{(1)}_E,\,\psi^{(2)}_E  の固有値が E  であると仮定する.

ただしHamiltonianの形が

であるとする.
次の行列式で定義されたWronskian

を考えて,その微分をとると

よって W=\mathrm{const}
波動函数が規格化されているので x\rightarrow\pm\infty  においては波動函数が \psi_E(x)\rightarrow0  とならなければならない.
このことから W=0  と決まる.
したがって,

であり,これを積分すれば \psi^{(1)}_E = e^C\psi^{(2)}_E  が得られてさらに規格化条件

で積分定数 C  を定めれば, e^C=1  となって C=i\delta\,(\delta\in\mathbb{R})  となる.
したがって2つのエネルギー固有状態は位相因子を除いて一致するが,しかしこれは最初の仮定の波動函数が異なるということに反する.
したがって

規格化条件の課された一次元エネルギー固有状態に縮退はない

ということが証明できた.

波動函数は一般には複素函数であったので極座標表示すれば \psi_E(x)=|\psi(x)|e^{i\theta(x)}  とかける.
複素共役をとれば \psi_E^*(x)=|\psi(x)|e^{-i\theta}  である. Hamiltonianは自己共役演算子だから二つの波動函数は同じSchrödinger方程式 \hat{H}\psi_E=E\psi_E,\,\hat{H}\psi_E^*=E\psi_E^*  にしたがう.
すなわち一般にはエネルギー固有値 E  に縮退が存在することになる.
しかし一次元束縛状態に縮退は存在しないのだから波動函数の形は制限される.
\psi_E(x)  \psi_E^*(x)  が同じ状態に対応するならばその違いは位相因子だけである. つまり \psi_E(x)=e^{i\delta}\psi_E^*(x)  でなければならない.
位相因子の選び方は自由であるから \delta=0  にとってしまえば波動函数は \psi_E(x)=\psi_E^*(x)  となって実函数にとれる:

一次元束縛状態の波動函数は実函数に選べる.

次に一次元束縛状態ではエネルギー固有値が離散的になることを示そう.
もしエネルギー固有値が連続であったならば微少量 \Delta E  だけずれた2つのエネルギー固有値 E  E+\Delta E  をとることができる.
この2つはSchrödinger方程式を満たし, \hat{H}\psi_E=E\psi_E  \hat{H}(\psi_E+\Delta\psi)=(E+\Delta E)(\psi_E+\Delta\psi)  を満たす.
ここで波動函数も微少量 \Delta\psi  だけずれているとした.
2式の差をとって二次以上の微少量を無視すると,

となる.
左から \psi_E  をかけて全空間で積分すれば,

となるが,左辺のHamiltonianが左の \psi_E  に作用すると固有値 E  を返して右辺の第2項と等しくなる.
また束縛状態での規格化条件より右辺第1項は \Delta E  となる.
以上から \Delta E=0  がいえる.
固有値を連続と思って微小にずらしたとしてもそのずれは 0  でなければならない.
換言すれば固有値は連続的にずらすことができす,離散的であるということである:

一次元束縛状態のエネルギー固有値は離散的である.

定常波と節

定常波動函数の零点( \psi(x)=0  を満たす点 x  )は定常波の用語に倣って節 (node) とよばれる.
エネルギー固有状態 \psi_1,\,\psi_2  についてその属する固有値が E_1<E_2  であるとしよう.
Wronskianの x  微分を再び考える:

\psi_1  x=a,b  に節をもつとしa<x<b  において常に\psi_1>0  とする.
上式の両辺を a<x<b  の区間で積分すると,

\psi_1(a)=\psi_1(b)=0  より左辺は,

ゆえに,

a<x<b  \psi_2(x)>0  としよう.
すると E_1<E_2  であることから右辺は負になる.
一方 \psi_1  の条件から \psi'(a)>0  かつ \psi'(b)<0  が言えて左辺は正になる.
よってこれは不適である.
次に a<x<b  \psi_2(x)<0  とすると今度は右辺は正になるが,左辺は負となる.

まとめると a<x<b  \psi_2(x)  が一定符号をもつならば上式は満たされないことがわかる.
\psi_1<0  の場合も同様の議論から \psi_2  a<x<b  において一定符号はとれない.
ゆえに \psi_2(x)  は少なくとも1回正から負に(あるいは負から正に)変わることがある.
すなわち a<x<b  に少なくとも1つ節をもつ.

波動函数 \psi_n  の固有値が離散的ですべての n  に対して E_n<E_{n+1}  であるとする.
束縛状態では x\rightarrow\infty  \psi_n\rightarrow0  でなければならない.
この無限遠から最初の節までで上の議論をすればやはりその間に節をもつ.
したがって全体で見ればエネルギーが高いほど節の数は増えることがいえる.

また積分する両端 a,b  を波動函数の定義域全体に拡げて \psi_0  が常に正とする.
\psi_0  以外の固有状態はかならずその間で節をもつので E_0<E_n  となる.
つまりこの波動函数 \psi_0  は最低エネルギーの固有状態,基底状態である.
逆に基底状態の節は0個である.

一次元束縛状態の基底状態は節をもたない.

ポテンシャルが偶函数 V(x)=V(-x)  のときSchrödinger方程式は,

であるが,ここで x\rightarrow -x  とおきかえると,

となって \psi(-x)  \psi(x)  と同じ微分方程式にしたがう.

一次元束縛状態には縮退がないので \psi(-x)=\alpha\psi(x)  とかけて,ここでも x\rightarrow -x  とおきかえると,

よって \alpha^2=1  \alpha=\pm1  と求まる.
したがって,

と分類できる.
つまりポテンシャルが偶函数のときには波動函数は偶函数か奇函数のどちらかに制限されるということである.

不連続点を持つポテンシャル

最後にあとの問題で必要になる波動方程式の性質について述べておく.
ポテンシャル V(x)  x=a  において不連続点をもつ場合,

の波動函数について考察しよう.
ただし V_+>V_-  としても一般性は失われない.
このとき波動方程式をこの不連続点の近傍において積分して

を満たす.
左辺からは \psi'(a+\delta) - \psi'(a-\delta)  が得られる.
他方で右辺は v(x)  の飛びが有限でさえあれば積分区間を [a-\delta,\,a]  [a,\,a+\delta]  にわけることができてそれぞれ \delta\to0  0  となる.
したがって

すなわち波動函数の微分はポテンシャルの不連続点 x=a  においても連続である.
ポテンシャルの不連続点で領域を分けて波動方程式を解き,連続性の条件を用いてなめらかに繋ぐ必要があることを意味する.

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