Prerequisite
中心力場 (central force) とは物体がその中心からの距離にのみ依存し,向きが中心方向(またはその反対向き)の力をうけるようなポテンシャルのことである.
すなわちポテンシャルは球対称性を持っていて,同一球面上の質点は同じ大きさの力を受け,力の向きは球面に垂直である.
このようなポテンシャルはありふれていて,例えば重力がそうである.
地球上では物体はすべて重力によって地球の中心に向かう力を受けている.
また太陽の重力に引かれて地球を含む惑星・小惑星は楕円運動(ほぼ円運動)している.
彗星は遠方からゆっくりやってきて太陽の近くで急激にターンして遠方に去っていくような楕円軌道を描く.
これらの天体に関する事実はKeplerの法則にまとめられる.
中心力を理解することは天文学の初歩である.
他方でミクロな世界に視線を向けると,原子も天体同様に中心力場で支配される.
原子は(古典力学的な解釈では)原子核の周りに電子が回る構造をしている.
核と電子の間に働くのはCoulomb力とよばれる電磁気的な相互作用である.
中心力場は原子の構造を理解する上でも重要となる.
では中心力場の議論に入ろう.
質点の原点からの距離を としてポテンシャルを とおく.
ここではポテンシャルの発生源(ソース)が何であるかは特定せず一般的に扱う.
ただしポテンシャルの中心は空間に固定されているとし,質点の運動のいかなる影響も受けないとする.
このポテンシャル中の粒子の運動方程式は,
である.ポテンシャルの微分は次のように計算される:たとえば 成分については,
ここで2つ目の等号について,この微分を実行するとき と は によらない独立変数だから 微分にとっては定数と思って計算できて,
を得る.対称性から を に代えても同様にできるので,結局運動方程式は,
となる.
次のような量を定義する:
角運動量
これを粒子の角運動量 (angular momentum) と言う.
角運動量ベクトルは粒子の位置と運動量のどちらにも垂直な向きを向いている.
角運動量の時間微分をとってみよう.
中心力場中では より運動方程式は となるから,
平行なベクトルどうしの外積は に等しいので結局,
角運動量保存則
つまり中心ポテンシャル中では位置と運動量に垂直な角運動量ベクトルは時間によらず一定で向きも大きさも変えない(角運動量保存則).
角運動量が保存することから粒子の位置ベクトルと速度ベクトルは角運動量ベクトルに垂直な平面でしか動くことができない.
この平面を外れれば角運動量ベクトルは向きを変え保存則を破ってしまう.
こういうわけで中心力ポテンシャル中での粒子の運動はある平面内に限られてしまい,自由度は2である.
自由度が2ならば粒子の位置を指定する変数は2つでよい.
たとえばこの平面に 軸をとり角運動量ベクトルと平行に 軸をとろう.
軸をとっても粒子の運動には無関係であるから粒子の位置は で指定し中心からの距離も でよい.
今設定した座標系において角運動量保存則の式の成分を具体的に書けば,
となって結局1成分についての保存則となり,独立な式としては1つだけである.
この平面内に極座標を導入しよう.
座標の変換式は次の通り:
註) この座標系のことは3次元の円筒座標系ともいう.いまは 座標が意味を持たないので平面の極座標という言い方をする.
平面極座標
極座標表示では粒子の位置は で指定される.
このとき各成分の速さは,
である.角運動量の大きさをこれらを代入して計算する:
したがって,
あるいは正の解をとって,
一方,ポテンシャルが存在しているのでエネルギーも保存する.
エネルギー保存則の式は,
ここで速度の2乗については,
だから,
ただし粒子の運動は平面内に限っているから であり,さらに角運動量保存則の式 を用いて を消去すれば,
エネルギー保存則に角運動量に関するポテンシャル項が現れた.
これを遠心力ポテンシャルという.
この項については次の節で詳細を述べる.
保存則を速さについて解けば,
注目すべきはこの方程式に現れる変数が座標 などではなくポテンシャル中心から粒子までの距離 だけで は消去されたということである.
変数 と を右辺と左辺に分離して両辺を時間積分しよう.
すると,
これを計算すれば距離 の時間変化の式が得られる.
以上から粒子の軌道を決定する2つの式が得られた:
この2式に初期条件を加えることによって粒子の軌道は の函数として完全に決定する.
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