Baker–Campbell–Hausdorffの公式

Prerequisite

ここでは量子論にたびたび現れる演算子の指数函数 e^{\hat{A}}  の性質についてふれておく.
指数函数の定義は,

演算子の場合は指数の肩の演算子が必ずしも可換ではないために普通の数のような指数法則 e^xe^y=e^{x+y}  が成り立たない.
これを非可換な場合に拡張すると

BCH公式 (1)

が成立する.
また,

BCH公式 (2)

が成り立つ.
この2つをBaker–Campbell–Hausdorffの公式という.

先にBCH公式 (2)を証明しよう.適当なパラメータ t  の函数 f(t)= e^{t\hat{A}}\hat{B}e^{-t\hat{A}}  を定義して,

と展開できるとする.
t=1  のときBCH公式 (2)の左辺に等しい.
まず f(0)=\hat{B}  がわかる.
1階微分は,

よって f'(0)=[\hat{A},\,\hat{B}]  となる.
n  までを仮定して

とする.
\hat{G}_n  は交換子が \hat{B}  n  個の \hat{A}  の入れ子になった交換子である.
t  で微分をすると真ん中の交換子の両側の指数函数から \hat{A}  -\hat{A}  がおりてきて再び交換子となるので

これが以下帰納的に繰り返していくことがわかる.
そうして元の展開の式にそれらの値 f(0),\,f'(0),\,f''(0),\cdots  を代入すればBCH公式 (2)の右辺を得る.

\hat{G}_n  について \hat{B}  に対して演算子 [\hat{A},\,\cdot]  n  回作用していると見て( \cdot  には作用している対象が入る),

と表記する.
するとBCH公式 (2)は

と書くこともできる.

次にBCH公式 (1)を示そう.
適当なパラメータ t  の函数 f(t)= \ln e^{t\hat{A}}e^{t\hat{B}}  を定義して,やはり

と展開できるとする.
さらに対数の中の函数を g(t)=e^{t\hat{A}}e^{t\hat{B}}  とおいてこちらも g(t)=g(0)+g'(0)t+g''(0)t^2/2+g'''(0)t^3/6+\cdots  と展開しよう.
明らかに g(0)=1  で微分の計算から,

以上をふまえて \ln(1+x)=x-x^2/2+x^3/6+\cdots  を用いて,

これを t  のべきで整理し直して f  の展開と比べればよい.
煩雑だが容易な計算から,

ともとまる.
これらを 4  次以降もくりかえせば任意の次数でも逐次もとまる.
こうしてBCH公式 (1)の右辺が得られた.

Problem

\textsc{Problem1. }

次のBCH公式 (1)の逆の関係式を示せ:

\textsc{Solution. }

まず示したい式を

と変形しておく.
そして左辺を見て実数 t  の函数として

を考える.
g(t)  t=0  近傍でTaylor展開する.
g(0)=0  であり

より g'(0)=0
さらに2階微分は

であり t=0  においては

と計算される.
f  をTaylor展開して

t  の冪で整理して比較すればよい.
容易な計算から,

よって所期の結果を得る.
高次の項を得るにはTaylor展開の次数を上げれば良い.

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