極座標

円運動中心力場の運動の記述で登場した極座標について理解を深めよう.
ここでは二次元と三次元の極座標を紹介するが任意の次元へ拡張可能である.

二次元直交座標

まずは二次元空間の直交座標の復習から始める.
直交座標は2つの軸 x,\,y  を直交するようにとる.
x  軸に平行で大きさが 1  のベクトル \boldsymbol{e}_x=(1,\,0)  y  軸に平行で大きさが 1  のベクトル \boldsymbol{e}_y=(0,\,1)  をとると

を満たす.
この2つのベクトルは x,\,y  軸の目盛りの役割をする.
ある点の座標が \boldsymbol{r} = (x,\,y)  とは x  軸の値から x  y  軸の値から y  を読み取ったことを表していた.
それをベクトルの和で明示的に書くと

と展開できる.
速度ベクトル \boldsymbol{v}

である.
勾配 \boldsymbol{\nabla}=(\partial/\partial x,\,\partial/\partial y)

とかける.
微分は右に作用するので基本ベクトルは左に書いておく.

ここで基本ベクトルを導入する.
基本ベクトルは大きさが 1  のベクトルであり座標軸に平行なベクトルの組み {\boldsymbol{e}_i}  のことである.
基本ベクトルの個数は座標軸の数だけあり,したがって考えている空間の次元に一致する.
各座標軸は直交するので
2次元の直交座標では上でも与えた,

が基本ベクトルである.
基本ベクトルが与えられれば任意の位置ベクトル \boldsymbol{r}=(x,\,y)

と一意に展開できる.
\boldsymbol{e}_1,\,\boldsymbol{e}_2,\cdots,\boldsymbol{e}_N  N  次元空間の一般の基本ベクトルとし, \boldsymbol{v}  を任意のベクトルとすると,

と一意に展開できる.
このとき現れる係数 v_i  をベクトル \boldsymbol{v}  i  成分という.
基本ベクトルたちは次の正規直交関係を満たす:

正規直交関係

もし \boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}  ならばかならず v_1=\cdots=v_N=0  となる.
なぜならば \boldsymbol{v}=\boldsymbol{0}  のとき,両辺 \boldsymbol{e}_1  との内積をとってみると正規直交関係から \boldsymbol{e}_1\cdot\boldsymbol{v}=v_1=0  となる.
同様に \boldsymbol{e}_2,\cdots,\,\boldsymbol{e}_N  との内積をとれば他の係数も 0  であることがわかる.

註)一般に任意のベクトルを一意に展開できるベクトルの組みを基底 (basis) という.
基底の存在はZornの補題と同値であり任意のベクトル空間で保証される.
基底のうち,大きさが 1  でかつ互いに直交するものを正規直交基底という.
さらに正規直交基底のうち各基底ベクトルが座標軸に平行なものを基本ベクトルと呼んでいる.
ここでは基底の一般論は省略する.

極座標

2次元の直交座標系の任意の点は (x,\,y)  と指定される.
これに対して動径座標 r  と角度座標 \theta  を導入して原点からの距離と x  軸となす角度によって座標を (r,\,\theta)  で指定するのが極座標 (polar coordinate) である.
ベクトルの成分 (v_x,\,v_y)  は基本ベクトルを \boldsymbol{e}_x,\,\boldsymbol{e}_y  をとったときの係数を並べていると解釈できる.
本稿では (v_x,\,v_y)  は特に注釈がなければ直交座標における成分とする.
2つの座標は座標変換

極座標への座標変換

で結ばれている.
\theta  0\leq\theta<2\pi  の範囲である.
逆変換は

である.
ただし x\neq0
x=0  y\neq0  ならば \theta=\mathrm{arccot}(x/y)  とすればよい.
しかし原点 x=y=0  では \theta  を定めることができない.
実際原点は r=0  であり動径と x  軸のなす角を定義できない.
したがって極座標は \mathbb{R}^2\smallsetminus{(0,0)}  の上で定義された座標系である.
物理学において極座標系の原点が問題になることはほとんどない.

(x,\,y)  が与えられると (r,\,\theta)  が決まり, r  軸, \theta  軸が定まる.
直交座標系において極座標の基本ベクトルを見ると,

極座標の基本ベクトル

であることがわかる(ここでのベクトルの上は x  成分,下は y  成分である).

註)上でも述べたようにこの節では一般の基本ベクトルの導出はしない.一般相対性理論の章において任意の座標での基本ベクトルについて論じる.

極座標は直交座標系から見ると r  軸は原点から考えている点へ向かって伸び, \theta  軸はそれと直交するようにとる.
つまり同じ \mathbb{R}^2  平面の中でも角度によってその軸のとり方が変わる.
右辺を直交座標の基本ベクトルで展開すれば,

これは直交座標から極座標への基本ベクトルの変換の式である.
行列表記では

これは角度 \theta  の回転変換である.

速度ベクトルは考えている点でとっている r,\,\theta  軸で成分を見る.
ここで基本ベクトル \boldsymbol{e}_r,\,\boldsymbol{e}_{\theta}  も時間に依存していることに注意しなければならない.
微小時間で点が動くと r,\,\theta  軸も回転し向きが変換する.
直交座標での式を利用して計算すれば

よって速度ベクトルは位置ベクトル \boldsymbol{r} = (x,y) = r\boldsymbol{e}_r  の時間微分をとって

となる.

座標の任意の函数 f(x,y)  の勾配 \boldsymbol{\nabla} f  を極座標表示しよう.
座標変換 x=x(r,\theta),\,y=y(r,\theta)  x,\,y  r,\theta  の函数であるとみて鎖法則を適用すれば

と計算される.
したがって,

あるいは極座標での微分演算子として

とかける.
ここで \boldsymbol{e}_{\theta}  \theta  に依存するので微分演算子より左に置かなければならないことに注意せよ.

円筒座標

では次に2次元の平面極座標を3次元へ拡張しよう.
それには円筒座標と球面極座標の2通りの座標の取り方がある.
1つ目の円筒座標は単に平面極座標に z  軸を加えたものである.
直交座標 (x,\,y,\,z)  から円筒座標 (r,\,\theta,\,z)  への座標変換は

円筒座標への座標変換

である.
やはり x=y=0  z  軸)では角度 \theta  は定義できないことに注意せよ.
円筒座標では r  は点と z  軸との距離に等しい.

基本ベクトルは

円筒座標の基本ベクトル

に選べば良い.
直交座標からの基本ベクトルの変換としてかけば

これは z  軸周りの角度 \theta  回転である.

速度ベクトルと勾配は

と計算される.

球面極座標

次の座標のとり方は平面の回転を球面上の回転に拡張したものである.
これを球面極座標または球座標という.
球面極座標では動径座標 r  と2つの角度座標,極角 \theta  と方位角 \varphi  を用いる.
2つの角度座標は地球の経緯度と似た概念である.
ある位置ベクトル \boldsymbol{r}=(x,\,y,\,z)  について,それの大きさが r  ,方位角 \varphi  xy  平面での向き,極角 \varphi  z  軸となす角である.
座標変換は

球面極座標への座標変換

である.
\theta  0\leq\theta\leq\pi  の範囲を動き, \varphi  0\leq\varphi\leq 2\pi  の範囲を動く.
z  軸上では方位角 \varphi  を定義できず,さらに原点では \theta  も定義できないことに注意せよ.

基本ベクトルは

球面極座標の基本ベクトル

に選べば良い.
直交座標からの基本ベクトルの変換としてかけば

速度ベクトルと勾配は

と計算される.

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