量子論の基本原理

ここまでで量子論の基本的な枠組みの定式化が終わったのでまとめておこう.

1. 系の状態はベクトル |{\psi}\rangle に対応する.
2. 物理量は自己共役演算子 \hat{A}=\hat{A}^{\dagger} に対応する.
3. Bornの確率規則: 状態 |{\psi}\rangle における物理量の確率分布は |\psi_{abc\cdots}|^2 で与えられる.
ただし正規直交完全系を {|{a,b,c,\cdots}\rangle} として \psi_{abc\cdots}=\langle{a,b,c,\cdots|\psi}\rangle
特に物理量 \hat{A} の期待値は

4. Schrödinger方程式: 状態ベクトルの時間発展は微分方程式

で決まる
5. 射影仮説: 系に対し物理量 \hat{A} の理想的な測定を行い測定値 a を得た直後の状態は

となる.
ただし \hat{P}(a) は固有値 a に属する固有空間への射影演算子, \mathcal{N} は規格化定数.

ここまで暗に固有値は離散的なラベル付けができると仮定してきた.
固有値が離散的な場合,それらは整数 n  の函数として

のように書くことができる.
k  は縮退のラベル.
以下では簡単のために物理量 \hat{A}  に縮退はないとしよう.
正規直交完全系\{|{n}\rangle\}  であり正規直交関係と完全系の式

を満たす.
任意の状態ベクトルは

と展開できる.
物理量 \hat{A}  固有値分解

となる.
左右から固有ベクトルで挟めば行列要素

が得られる.
これは対角成分が a_n  の対角行列である.
物理量 \hat{A}  の函数 f(\hat{A})  の状態 |{\psi}\rangle  における期待値はBornの確率規則から

で計算できる.
ただし確率と解釈できるためには状態ベクトルに対して規格化条件

を課す必要がある.

量子力学では固有値が連続な場合もありうる.
たとえばオブザーバブル \hat{X}

を満たすとする.
x  は連続な固有値で固有ベクトル |{x}\rangle  も連続な個数存在する.
このとき任意の状態ベクトルは

と積分をつかって展開される.
\gamma  は固有値 x  のとりうる範囲.
展開係数 \psi(x)  x  の函数となる.

ここでは函数空間における内積の定義など細かい議論は省略する.
そういうことは保証されているとして,形式的に離散的な場合の議論に対して次の置き換えをする

ここで \delta(x-y)  Diracのデルタ函数である.

この置き換えによって演算子 \hat{A}  の行列要素は2変数函数を用いて

と定義され,演算子は

と展開される.
特にオブザーバブルの固有値分解は

となり,その函数の期待値の計算は

となる.
この場合はBornの確率規則において |\psi(x)|^2  を確率ではなく確率密度に置き換えた解釈になる.
また同様に規格化条件,

が課される.

さらに離散的な固有値と連続的な固有値の両方を含む場合もありうる.
そのときには正規直交完全系は2つのラベルで |{n,x}\rangle  のように書く.
そして任意の状態ベクトルは

と展開される.
たとえば粒子の座標は連続なラベルでスピンや束縛状態における角運動量といった物理量は離散的なラベルとなる.

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