エネルギー保存則

物体の運動の間一定値をとる量を保存量 (conservative quantity) と言い,それは運動方程式に解を与える上でとても重要な役割を果たす.

保存量は一般に物体の位置速度,時間などの函数として定義される: \mathcal{Q}=\mathcal{Q}(\boldsymbol{r},\boldsymbol{v},t)
そして保存量 \mathcal{Q}  は初期条件が与えられれば値が定まり,任意の時刻でもその値をとり続ける.
任意の時刻での位置や速度は保存量 \mathcal{Q}  によって関係付けられ,運動方程式の解を与える助けになる.
たとえば速度の大きさについて解いて v=v(\boldsymbol{r},\mathcal{Q},t)  のように表せられる.

ある物理量 \mathcal{Q}  が保存量とは,

となることである.
両辺を初期時刻 t_0  から任意の時刻 t  まで時間積分すれば, \mathcal{Q}(t)=\mathcal{Q}(t_0)  となってたしかに時間によらない保存量となっている.
有名な保存量としてはエネルギー,運動量角運動量などがある.

この節では保存量の中でもとりわけ重要なエネルギーを議論する.
エネルギーは経験上あらゆる物理現象において保存量となることが知られており,その保存則は単に運動方程式を解く手助けに止まらない普遍的な概念である.
原子・分子などのミクロな世界から天体・宇宙までのマクロな世界のさまざまなスケールにおいて,力学を超えて熱力学電磁気学・流体力学・相対性理論量子力学などの諸分野でも成立する物理法則である.

話を簡単にするために一次元運動を考え,後で三次元に拡張する.
Newtonの運動方程式

の両辺に速度の定義,

をかけてはじめの時間 t_0  から任意の時刻 t  までの範囲で積分すると,

ここで積の微分法より,

であるから前式の左辺は,

ただし v_0  は時刻 t_0  での速度.
一方右辺の積分で力 F  の原始函数を -V(x)  として,

と書ける仮定すると,

となる.ここで x_0  は時刻 t_0  での位置である.

以上のことを整理して,左辺に任意の時刻 t  の量を,右辺に初期時刻 t_0  の量を分けると,

力学的エネルギー保存則

が得られる.
この式は左辺の任意の時刻での mv^2/2+V(x)  という量が初期値と等しく,一定値であることを示している.
そこで左辺の値を

エネルギー

と定義すると, E

を満たす保存量である.
この E  エネルギー (energy) という.

エネルギーの定義の第1項は速度の函数で,運動エネルギー (kinetic energy) という.
運動エネルギーは質点の運動の「勢い」と解釈できる.
第2項は位置の函数で,ポテンシャルエネルギー (potential energy) ,または位置エネルギーという.
一般にポテンシャルエネルギー V  は色々な物理量に関係するが,たいていは V  は力を及ぼす源からの距離に依存する.

自明な例として何の力も受けていない静止した物体のエネルギーは 0  である.
また慣性の法則にしたがって等速直線運動する物体のエネルギーは速さを v  として, E = mv^2/2  となる.

では一様重力場ではどうか.
一様な重力場では物体に力 mg  が作用するのでポテンシャルエネルギーの項:

が現れる(鉛直上向きに z  軸を設定した).
ここで C  は積分定数であるが,これはポテンシャルエネルギーの原点を選ぶことで定められる.
大抵の場合は物体の高さ z  と同じにとり C=0  とする.
一様重力中のエネルギーの表式からエネルギーの理解を深めよう.

一様重力場中のエネルギー保存則.

地上から高さ h  のところで(地上に対して)静止する物体を考える.
エネルギーは E=mgh  と与えられる.
任意の時刻 t  でのエネルギーの表式は,

z  は時刻 t  での物体の地上からの高さである.
質点はすぐに地球の重力に引かれて落下し始め,速度を得て運動エネルギーが増加していく.
一方ポテンシャエネルギーは,地上との距離が縮まるにつれて減少していく.
エネルギーの総量は一定であるから,ポテンシャルエネルギーの減少分が運動エネルギーの増加分に変換されたと言える.
物体の速度に変化が生じた場合,その前後ではエネルギーのやりとりが起こっており,その収支は必ず \pm0  である.

物体を重力に逆らって投げ上げるとある高さまでいくと落下に転じる.
最高点では鉛直方向の速度は 0  となり運動エネルギーも 0  となっている.
最高点はちょうどエネルギー一定の直線とポテンシャル V(z)  の交点に相当する.

エネルギー保存則により青線の領域でのみ物体は運動が許される.

速度が実数であることから一般に不等式

が成り立つ.
つまり質点はポテンシャルエネルギーのグラフの「上で」運動する.
等号が成立するのは速度が 0  に等しいときであり,それはとりも直さずエネルギーがポテンシャルエネルギーのみのときである.

エネルギー保存則を用いて運動方程式を解くことを考えよう.
一次元の力学的エネルギー保存則の式を速度について解けば,

運動方程式は2階の微分を含んだ方程式であったのに対して,この式は1階の微分までしか含んでいない.
ポテンシャルが x  のみの函数ならば変数分離をして両辺を時間で積分する,

あとは積分計算を実行できれば質点の軌道 x=x(t)  を求めることができる.

自由な質点( V=0  )の場合は

x  について解けば x=x_0+v_0(t-t_0)  となる ( \sqrt{2E/m}=\sqrt{v^2}=\pm v  となることに注意せよ) .

一様重力場では,

これは直ちに積分が実行できて,

z  について解くと

となる.自由落下の初期条件 t_0=0  z_0=h,\,v_0=0  とするとエネルギーは E=mgh  なので,

斜方投射の初期条件 t_0=0  z_0=0,\,v_{z0}=v_0\sin\theta  とするとエネルギーは E=mv_0^2\sin^2\theta/2  なので,

いずれも運動方程式を積分する場合と同じ結果が得られた.
しかしエネルギー保存則を用いると,積分操作を一度しか行わないで質点の軌道が求まった,という点で問題は簡単になっている.

この節では一次元のエネルギー保存則のみを扱った.
またエネルギーが保存するための条件については触れなかった.
まず三次元へ拡張するためには積分を改良しなければならない.
ポテンシャルの積分は変数変換 x=x(t)  により座標の積分としたが,これは一次元なので普通の積分と変わらない.
しかし実際には物体の軌道に沿った積分であり,三次元では一般に曲線軌道に沿った積分となる.
このような曲線に沿った積分,線績分を導入してから三次元でのエネルギー保存則や保存する条件について議論する.

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