運動の法則

Prerequisite

物体の位置を時間の函数として求めることを考えよう.
積分を駆使すれば速度加速度の情報から位置を求めることができるということは前節で見た.
その際は積分だけでは定まらない 6  個の定数を初期条件から与える必要があった.

加速度は物体に働く「力」と関係していることは直感的にも明らかであろう.
ボールを投げたり,荷物を引っ張ったり,手で力を加えると物体は動き出す.
また重力によって落下したりする.

Newtonはこれらの力と加速度の間の関係性を実験により見つけ出した.
それは,

で与えられ,Newtonの運動方程式(あるいはNewton方程式)という.
m  は物体の質量 (mass) であり, \boldsymbol{F}  (force) という.

運動方程式から定性的にわかることは,同じだけ加速するためには,重い物体にはより大きな力が必要となることである.
また同じ質量の物体に対してより大きく加速するためにはより大きな力が必要となる.
加速する向きと力の向きは平行であることもわかる.

一般に,位置と速度と加速度を結びつける方程式のことを運動方程式 (equation of motion) と言う.
Newton方程式は運動方程式の1つであり,これは質点の運動についてのみ成り立つ.
大きさを持った普通の物体や流体を扱うにはこの方程式ではなくほかの方程式が適当である(例えば剛体のEuler方程式や流体のNavier-Stokes方程式がある).
大きさを持った物体に関してはその変形や回転の運動がなければやはりNewton方程式で記述することができる.
詳細は剛体の章で述べることにしてここでは大きさを持った物体の並進運動にもNewton方程式を適用する.

運動方程式だけからは質点の位置の函数形を完全に決定することはできない.
Newton方程式をみれば方程式は位置の2階の微分を含むために積分定数を2つ含む.
これを取り除くために位置と速度のある時刻での値,初期条件が必要となる.
もしくは後に述べる保存量を用いることでもこの不定性を取り除くことができる.

力は時間とともに変わる時間の函数であることもあるが,重力のように位置によって変わったり,空気抵抗のように速度によって変わったりするので \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r},\,\boldsymbol{v},\,t)  とかかれる

註)加速度やさらなる高階微分も一般には含められるがここでは議論しない.

もし力が時間のみの函数であれば加速度が時間の函数として与えられ,速度と位置も積分により直ちに求めることが可能である.
しかしながら力が速度や位置の函数である場合は事情が異なってくる.
その場合,運動方程式は位置を未知函数とする微分方程式 (differential equation) となる.
微分方程式の解法に一般論はないので力の函数形に応じて個別に議論することにする.

もっとも簡単な例として力が零ベクトルの場合を考えてみよう:

このとき運動方程式より物体の加速度も零ベクトルである.
積分により速度は定ベクトルとなり,速度の成分を \boldsymbol{v}=(v_x,\,v_y,\,v_z)  とおく.
x  成分については,

となる.初期時刻 t=0  で位置 (x_0,\,y_0,\,z_0)  にいたとすると, C_x=x_0  と求まる.
他の成分でも同様で結局,

となる.この物体の軌道は直線となり,等速直線運動と呼ばれる.
ただし速度が全て 0  の場合は位置ベクトルは定数であり物体は静止する.
物体に働く力が零ベクトルのとき物体は等速直線運動または静止することが導かれた.
これを慣性の法則 (the law of inertia) という.

慣性の法則が成り立っているときというのは,物体に力が働いていないということではない.
働く力の総和が零ベクトルとなる場合もある.
こういうとき力がつりあっている,合力が \textbf{0}  という.
あるいは状態が安定という意味で力学的平衡 (mechanical equilibrium) の状態にあるともいう.
力学的平衡状態であるときは物体は静止もしくは等速直線運動する.

考えている系に複数個の質点が存在する場合には質点それぞれでNewton方程式が成立する.
質点が N  個あったならば, N  個の運動方程式,

が成り立つ.ただし m_i,\,\mathbf{r}_i,\,\boldsymbol{F}_i  i  番目の質点の質量,位置,作用する力である.

二つの質点の場合を考えよう.
運動方程式は,

それぞれの物体に作用する力は次の二つに分類できる.
1つ目は他方の物体から一方の物体に作用する力,相互作用 (interaction) である.
2つ目は系の外部からの力,外力 (external force) である.
それらを \boldsymbol{F}_i=\boldsymbol{F}_i^{(\mathrm{int})}+\boldsymbol{F}_i^{(\mathrm{ex})},(i=1,2)  とかこう.
外部からの力というのはたとえば地球上で言えば重力空気抵抗摩擦などがある.
地上に二人の人間が手で押し合っている例を考えよう.
するとこの押し合う力が F^{\mathrm{int}}  であり,地球からの重力が \boldsymbol{F}^{(\mathrm{ex})}  である.

外部からの力 \boldsymbol{F}^{(\mathrm{ex})}  が一様で両者に及ぼす力が等しいときに慣性の法則が成り立っていると運動方程式は,

辺辺引き算すると,

となる.すなわち片方に働く力ともう片方に働く力の大きさは一致し二力は互いに逆向きである.
これを作用・反作用の法則という.

地球上の物体にはすべて重力が働いている.
それにもかかわらず机の上にある本が静止しているのは机が本を支える力と本の重力とがつり合うからである.
このことは慣性の法則と作用・反作用の法則の帰結である.
この重力に応じて物体を支える力のことを垂直抗力 (normal force) という.
もし垂直抗力のようなつり合う力が働かなければ重力を支えきれず机は崩壊し本は重力に従って下に落ちるだろう.
重力によって下に落ちるという加速運動が生じるのである.
だからたとえば本ではなく象を机の上に持ってくると,象を支えるだけの垂直抗力が机には備わっていないならば,今度は机はつぶれ象は落下運動を始める.

運動方程式に関して注意するならば,方程式上の物体に作用する力 \boldsymbol{F}  はその物体に直接作用しているような近接力だけが許される.

例をあげよう.
上図のように2つの物体がひもで結ばれているときの1次元運動を考える.
片方の物体Aを力 F  で引っ張るとき,もう片方の物体Bに働く力は次のように考えて求める.
物体Aに働く力は F  とひもに引っ張られる力 -T  である.
ひもは物体Aから T  で引っ張られ,物体Bにより -T'  の力で引っ張られる.
それにより物体Bはひもから力 T'  で引っ張られ,これ以外に力は働かない.
物体A,物体B,ひもの質量を m_A,\,m_B,\,m_s  とするとそれぞれの運動方程式は

である.
もしひもの質量が物体A, Bに比べて十分軽いならば m_s\simeq0  と近似できて T\simeq T'  が成り立つ.
すなわちひもの両端に働く力は等しいと近似できる.
本稿で物体がひもで結ばれている場合は常にこの近似が成り立つものとする.

重力や電磁気力も一見遠隔から作用している様に思えるが,場の理論というものに移ればすべての作用は近接作用と解釈できるようになる.
場については電磁気学の章で詳しく触れる.

以上の質点の運動に関する性質は次の3点にまとめられる:

  1. 質点に作用する力の和が \boldsymbol{0}  に等しいとき,質点は静止または等速直線運動する
  2. 質点に作用する力と加速度は比例しNewtonの運動方程式にしたがう
  3. 一方に働く力ともう一方に働く力の大きさは一致し互いに逆向きに作用する

これらを質点に関する運動の法則という.

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