速度が時間 を含む場合はどうであろうか.
速度を微分して,
という量を定義する.これは位置ベクトルの2階微分である.
この を物体の加速度 (acceleration) という.
註)ある函数 を 回微分したものを の 階微分といい,
とかく.2階微分は ともかく.
加速度について直感的に理解しておこう.
私たちが歩いたり走ったり,車や飛行機あらゆるものがその速度を変化させようとするとき,加速もしくは減速している.初め静止していた人が歩き出したり,走っている車がブレーキをかけると,そこに速度の変化がある.
これが加速度の物理的意味である.
それは人間の足の筋肉によるものであり,また車が減速するのはブレーキ機構により生じるものである.
さらに地球が太陽のまわりを回転するのは太陽の重力によって少しずつ軌道が曲げられているからである.
これらに共通することは動くものに,なんらかの「力」が働いていることである.
この力によって加速度が生じ,速度ベクトルの変化が生じるようである.
加速度から位置ベクトルを求めてみよう.
加速度が時間の函数,
で与えられるとする.
速度ベクトルは の原始函数を とすれば,
ただし は積分定数.
さらに の原始函数を とすれば,
となる.
ただし は積分定数.
加速度ベクトルから位置ベクトルを求めるとすると 個の積分定数が現れる.
これらを定めるには位置と速度に関する\textbf{初期条件} (initial condition) が必要がある.
つまり位置と速度の測り始めの時刻 での値 と を与える.
時刻 では上の結果がこれらの初期値に等しくなければならないという条件から(簡単のため 成分だけ),連立方程式
が成立する.
これらを解いて が
よって速度と位置は
と求まる.
例として加速度が定数 で与えられるときは,
初期条件 で と を与えると物体の軌道は
となる.
もし加速度を何らかの方法で知ることができたならば,物体の運動は初期条件だけから完全に決定される.
はじめに述べたように加速度は物体に外部の力がはたらくときに生じる.
この経験則に基づいた加速度を与える方法は次章にゆずる.
加速度の変化はなんらかの意味をもっているのであろうか.
加速度の微分をとって,
と定義する.これは躍度 (jerk) とよばれる量である.
次章で述べるように現実世界と直接に対応をもつのは2階微分である加速度であり,ここから立つ2階微分方程式を解けば位置と速度は定まる.
したがって簡単な問題を解く上で躍度は不要な情報であることが多い.
ただ電子のような荷電粒子の加速度運動に際しては躍度が関与する物理量が現れる.
荷電粒子は加速度運動するときその加速度に依存したエネルギーの光を放出する.
そのとき放出の反動で荷電粒子は減速する(Lorentz摩擦).
この減速する加速度の大きさは躍度に比例する.
註)筆者の知る限り躍度のさらなる微分が重要な物理量として登場することはない.