物体に働く力がつりあっているとき,運動方程式は
となる.これを解けば物体は静止または等速直線運動することが導かれる(慣性の法則):
この節では慣性の法則について掘り下げて議論する.
静止または等速直線運動しているような系を慣性系 (inertial frame of reference) という.
観測者は自身を観測しても常に原点で静止しているように見えるので,観測者の運動は観測者自身からはわからない.
そこで「観測者が慣性系である基準系(慣性基準系)をいつでも設定することができる」という仮定をおくことにする.
後で見るように慣性基準系から物体を観測したときに限り慣性の法則が成り立つ.
すなわち慣性基準系は「力学的平衡な任意の物体に対して慣性の法則が成り立つ」ような観測者の系のことである.
慣性の法則だけでなくNewtonの運動の法則はどれも慣性基準系でのみ成り立つ.
もし観測者の運動が等速直線運動ではないならばこれらに修正が必要となる.
たとえば円運動のような非等速直線運動をする観測者を考えることもあり,このような系を非慣性系という.
非慣性系についてはあとの節で詳しく述べる.
いま慣性基準系にいる観測者Aliceから別の観測者Bobの運動を観測する.
そのときBobの速度が の等速直線運動であったとする.
時刻 でのAliceから見たBobの位置ベクトルは となる.
ただし は時刻 でのBobの位置.
この二人の観測者が物体の運動を観測するときどのような違いがあるだろうか.
Aliceから観測すると位置ベクトル ,速度ベクトル であり,Bobから観測すると であったとする.
まず位置ベクトルの関係は
となる.両辺を微分することで速度の関係式
を得られる.
したがって異なる慣性系から見た物体の速度の変換公式,Galilei変換が得られた.
慣性基準系をいつでも設定できるという仮定をもっと具体的に言い換えよう.
Galilei変換で移りあえる観測者はすべて慣性基準系である.
実際,Bobから見ると物体の速度は であるから,Aliceから見て等速直線運動する物体はBobから見ても等速直線運動となる.
したがって慣性基準系Aliceから見てBobがどの位置にあろうとも等速直線運動する限りBobも慣性基準系である.
慣性の法則はGalilei変換で移り合うすべての慣性基準系で成立する.
もしNewtonの運動方程式もすべての慣性基準系で成り立つ場合,この範囲での物理法則がすべての慣性基準系で同様に成り立つと言える.
観測者は座標を直交座標によって測るがその原点や座標軸の向きはどのようにとったとしても観測に影響がない.
また時間の原点も同様である.
さらに観測者の自由度として,一定の相対速度 の観測者に移っても同様に運動の法則が成立し観測に影響しない.
これをGalileiの相対性原理という.
運動方程式とGalilei変換の関係については節を改めて議論する.
最後に註として,Galilei変換では「AliceとBobの時間の進み方は同一である」ということが暗に仮定されている.
もし時間の進み方も観測者によって異なるならばGalilei変換では不適切である.
時間を含めた観測者間の速度の変換規則は特殊相対性理論の章において議論する.
Problems
地上で静止するAliceが鉛直した向きに等速度 で落下する雨を観測している.
Aliceに対し速度 で運動するBobから雨を観測したとき雨はどれだけ傾いて見えるか.
Galilei変換によりBobの観測する雨の落下速度は である.
雨は等速直線運動なので速度 の方向に落下している.
よって雨の傾きは2つの速度 と のなす角に等しい.
なす角を とすると内積は なので
Galilei変換の式を代入して整理すれば
ここで である.
“Galileiの相対性原理” への1件のフィードバック