Gauss波束

前節では自由な空間における波動函数の一般解を求めた;

ここで \widetilde{\psi}_0(\boldsymbol{p})  は初期条件から定まる.
任意の状態ベクトルが規格化されるという条件 \langle{\psi|\psi}\rangle=1  から座標表示または運動量表示の波動函数は任意の時刻において

を満たす.
このためには波動函数は少なくとも無限遠で \psi\to0  とならなければならない.
波動函数は空間に局在してそこから遠ざかるにつれて減衰するような函数形を持たなければならない.
このような波動が空間的に局在した解は波束 (wave packet) とよぶ.

この節では \widetilde{\psi}_0(\boldsymbol{p})  を具体的に与えて波動函数を求めたい.
以下簡単のために一次元で考えるが三次元でも全く同様の議論が可能である.
不確定性原理を思い起こすと

が満たされている.
そこでこの不確定性の不等式の等号成立の場合の解を調べよう.
一般に不確定性関係の等号を成立させるような解を最小不確定状態という.

不確定性最小のとき \Delta p\cdot\Delta x=\hbar/2  である.
不確定性原理の等号成立というのはその導出より,

ここで \alpha  は任意の実数.
期待値は単なる定数だから略記して \langle{\hat{x}\rangle}=x_0,\,\langle{\hat{p}\rangle}=p_0  と書くことにしよう.
左から \langle x|  をかけて座標表示をとれば,

という微分方程式が得られる.
これは容易に解けて,

ただし遠方で \psi\to0  でなければならないから \alpha<0  に制限される.
そこで \alpha\hbar = -a^2  とおけば
C  は規格化定数で \int\mathrm{d} x\,|\psi(x)|^2=1  によって決まり,

ただし位相因子を 1  に選んだ.
よって最小不確定状態は

Gauss波束

と書ける.
この最小不確定状態の確率密度はGaussianなのでGauss波束ともよばれる.
Gaussianの性質から直ちにゆらぎは \varDelta x=a/\sqrt{2}  であり,たしかに x_0  付近においてこのゆらぎ程度の幅で局在していて,両側の遠方でGauss波束は指数函数的に減衰する.


註)統計学におけるGaussianとは

という形で定義される.
ここで \mu  x  の平均 \langle{x}\rangle  であり, \sigma^2  x  の分散 \langle{x^2}\rangle-\langle{x}\rangle^2  である.
量子論において確率密度はBornの確率規則より |\psi(x)|^2  でありゆらぎは分散の平方根 \varDelta x= \sqrt{\sigma^2}  で定義される.


Fourier変換をして \widetilde{\psi}(p)  を求める.

これにGauss波束の表式を代入すれば,

よって再び \widetilde{\psi}(p)  はGaussianであり,そのゆらぎは \varDelta p=\hbar/(\sqrt{2}a)  である.

註)運動量表示では規格化条件が \int\mathrm{d} p/(2\pi\hbar)|\widetilde{\psi}(p)|^2  であることに注意せよ.
それゆえ確率密度は |\widetilde{\psi}(p)|^2/(2\pi\hbar)  になる.

たしかに

なので不確定性原理の等号が成立している.
パラメータ a  は座標と運動量のゆらぎを制御している.
a  を小さく選ぶと x  のゆらぎを小さくなるが運動量のゆらぎは大きくなる.

初期条件としてGauss波束を採用しよう.
任意の時刻での波動函数は一次元における一般解より

煩雑だがGaussianであることを尊重しながら整理すると

ここで,

とおいた.
計算を続ける:

したがって元のパラメータに戻せば,

指数函数の中を実部と虚部に分けよう.
表記の簡単のために

を導入して

ここで

とおいたがこれは期待値の計算には寄与しない位相因子である.

Gauss波束は時間発展してもGaussianを維持する.
座標の平均は

であり,速度 v_g=p_0/m  で等速直線運動する古典粒子と同じ結果を得る.
波束の速度 v_g  は波束全体が並進移動する速度だから群速度とよぶ.
座標のゆらぎは

となって時間が経つにつれて増大する.
つまりGauss波束 \psi(t,x)  は時間が経つにつれてばらつきが大きくなりピークが平たくなっていく.
一方で運動量はHamiltonianと可換なので時間発展で期待値が不変である(波動函数を用いて直接計算することもできるが非常に煩雑なだけでメリットがないのでここでは省略する).
それゆえ不確定性関係は

となって最小性を失う(波束の崩壊).

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