運動量表示

Prerequisite

正規直交完全系を座標ではなく運動量 \hat{p}  で構成することももちろん可能である.
議論は座標の場合とほとんど並行に進む.
\{|{p}\rangle\}  を運動量の正規直交完全系とすると

を満たす.
波動函数は,

で定義される.
こちらは状態ベクトル運動量表示とか p  表示という.

微分演算子を

で定義すると, \hat{x}  のふるまいは,

より i\hbar\hat{\partial}_p  と同じになる(符号に注意).
座標表示のときと同様にこの対応には運動量の函数 g(\hat{p})  の不定性が許される.
座標と運動量の任意の函数 f(\hat{x},\hat{p})  の期待値は,

基底が2つ用意されたのでその間の変換式が問題になる.
量子論では2つの基底 {|{\mu;1}\rangle}  {|{\mu;2}\rangle}  があると,その間はユニタリ変換

で結ばれた.
座標表示の波動函数 \psi(t,x)=\langle{x|\psi,t}\rangle  の間に運動量の完全の式を挿入すると,

となる.
したがって \langle{x|p}\rangle  が基底の取り替えを表す行列要素 U_{\mu\nu}  に対応するものである.
これを具体的に求めるには間に \hat{p}  を挟んだものを考えると,それぞれの表示の対応規則から,

この微分方程式を解けば,

逆変換はユニタリ性よりHermite共役をとった \hat{U}^{\dagger}  である.
運動量表示の波動函数に \hat{x}  の完全の式を挟んだものを考えると,

となって逆変換の行列に対応するものはたしかに \langle{x|p}\rangle^*  である.
この変換をつづけて行うと,

p  積分が実行できてデルタ函数を与えるので,

となる.
したがって |C|=1/\sqrt{2\pi\hbar}  となる.

以上をまとめると2つの表示の間の変換公式は,

である.
これは波動函数のFourier変換に他ならない.
Fourier変換は直交する函数系として e^{-ikx}  をとってきて展開するというものだった.
座標と運動量の正準交換関係ようなものを満たすならば,その基底は必ずFourier変換で結ばれる.
もし交換関係がこれとは違うならば,2つの基底の間の関係はもっと別の直交函数系によって展開されるだろう.
物理学では運動量の正規直交関係を定数倍して再定義して,

とすることがよくある.
そしてFourier変換を

となるようにする(詳細は問題).
本稿でもこちらの定義を採用することにして,運動量の積分には 2\pi\hbar  の因子が現れると約束する.

Problem

\textsc{Problem1.}

運動量の正規直交関係を定数倍して再定義したとき本文で与えられたFourier変換となることを示せ.

\textsc{Solution.}

まず任意の状態ベクトルは

と展開される.
ここで \widetilde{\psi}(p)=\langle{p|\psi}\rangle
これから完全系の式は

と修正されることがわかる.
座標表示の波動函数にこの完全の式を挟み込んで

改めて \langle{x|p}\rangle=Ce^{-ipx/\hbar}  とおくと

運動量表示の波動函数 \widetilde{\psi}(p)  を座標表示して

を代入すれば,

よって C=1  に選べば良い.
このときたしかに所期のFourier変換の式が得られている.

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