線積分

この節では3次元空間内の曲線上で定義された線積分を導入する.
1変数函数 x=f(t)  の積分は t  軸と函数を囲む範囲の面積を表していた.
線積分では任意の曲線とその上の函数で囲まれた面の面積を表す.
物理では任意の曲線は運動の軌道に対応し,軌道上で定義された量の積分を計算することはよくある(たとえば仕事).

函数 f  と曲線で囲まれた領域の面積.

3次元空間上で定義された函数 f(\boldsymbol{r})  を曲線 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  に沿って積分することを考える.
力学で使うことを意識して \boldsymbol{r}  を質点の位置, t  を時間と思うとわかりやすいだろう.
曲線の特定の区間に \gamma  という名前をつけて, \gamma  上での積分を

スカラー函数の線積分

とかく.ここで \mathrm{d} l  は曲線上の微小線要素といい,

とかける.あるいは区間 \gamma  の始点と終点を P,\,Q  として


と書いても良い.
始点と終点が一致する曲線をループといい,ループ \gamma  上の積分は特に

と表記する.

曲線の式 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  を線要素 \mathrm{d} l  からパラメータ t  への変数変換とみなそう.
始点と終点において t=t_P,\,t=t_Q  とすると,

であるから

となる.右辺に現れた因子は速度の大きさ(速さ)である.
この右辺は普通の1変数函数に関する定積分なのでこちらを線積分の定義とすることが多い.

線積分を区分求積法により正当化しよう.
連続な函数 f  と曲線 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  に沿った区間 [t_P,\,t_Q]  で挟まれる領域を N  個の縦長長方形に分割する.その函数と曲線で挟まれる領域の面積 S  は2つの長方形の和,

によって押さえられる.
\boldsymbol{r}(t_i)  は各長方形の端点の座標であり,特に \boldsymbol{r}(t_0)=\boldsymbol{r}(t_P),\,\boldsymbol{r}(t_N)=\boldsymbol{r}(t_Q)  である.
そして h_n  は長方形の幅で |\boldsymbol{r}(t_{i+1})-\boldsymbol{r}(t_i)|/N  と与えられる.
この分割では長方形の底辺が直線なので曲線に近いが少しずつずれた折れ線になっている.
分割の数を無限に多くして N\rightarrow\infty  としたとき,分割の幅 h_i  は0に近づき曲線に近づいていく.
すなわち h_i  N\to\infty  で微小線要素 \mathrm{d} l  である.

N\rightarrow\infty  で近似の精度が無限に良くなって2つの長方形の和が一致することがある.
このとき積分確定といい函数 f  の積分値が定義され

を得る.長方形の幅について

と変形する.
N\to\infty  の極限において t_{i+1}\to t_i  なので曲線 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  がなめらかならば,

の極限が存在し t  積分の形に帰着させられる.
こうして定義される曲線区間 \gamma  上の函数 f  の積分を線積分 (line integral) という.

線積分は次の性質を持つ:

ただし \overline{\gamma}  \gamma  と逆向きの曲線を表す.すなわち \gamma  P  から Q  へ向かう曲線ならば \overline{\gamma}  Q  から P  へ向かう曲線である.

f=1  の場合

は曲線 \gamma  の長さに等しい.
また微分積分学の基本定理から \mathrm{d} l/\mathrm{d} t = |\boldsymbol{v}|  である.

次に3次元空間上のベクトル値函数 \boldsymbol{F}(\boldsymbol{r})  を考える.
\boldsymbol{F}  は力学での力などを念頭におくと良い.
軌道の接線方向の単位ベクトルを \boldsymbol{n}  として \boldsymbol{F}  との内積をとりスカラー量を作る.
これを始点 P  から終点 Q  へ曲線 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  に沿って積分することを,

ベクトル値函数の線積分

とかく.ここで \mathrm{d}\boldsymbol{l}=\mathrm{d} l\boldsymbol{n}  は軌道の微小変位ベクトル(そのため文献によっては \mathrm{d}\boldsymbol{r}  と表記されることもある).
すなわちRiemann和では

で定義できる.長方形の幅について

と変形する.
N\to\infty  の極限において t_{i+1}\to t_i  なので曲線 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}(t)  がなめらかならば,

の極限が存在し t  積分の形

に帰着させられる.ここで \boldsymbol{v}  は速度ベクトルであり,

の関係がある.

線積分は軌道に沿った積分なのでパラメータ t  のとり方には依存しない.
実際 s=s(t)  の変数変換を行ったとしても変数変換の因子 \mathrm{d} t/\mathrm{d} s  と微分の鎖法則からくる因子 \mathrm{d} \boldsymbol{l}/\mathrm{d} t = (\mathrm{d} s/\mathrm{d} t)\cdot(\mathrm{d} \boldsymbol{l}/\mathrm{d} s)  がキャンセルする.
したがって軌道のパラメータ t  は実際の時間である必要もなく,計算に便利なものを選んで使えば良い.

Problems

\textsc{Problem1. }

xy 平面内の軌道 \gamma は原点 (0,0,0) を出発して (1,0,0) まで x 軸方向に直進し,次に (1,1,0) まで y 軸方向に直進し,最後に (2,2,0) まで直進するものとする.
このとき次の函数を軌道 \gamma 上で積分せよ:

軌道 \gamma

\textsc{Solution. }

線積分の線型性を利用して \gamma  を3つの区間に分ける.
軌道は xy  平面に限られるので積分の間は常に z=0  である.
1つ目の区間 \gamma_1  では x  軸方向に直進であり,パラメータとして x=t,\,(0\leq t\leq 1)  と選べばその式は \boldsymbol{r}(t)=(t,0,0)  と表される.
このとき \mathrm{d}\boldsymbol{r}(t)/\mathrm{d} t=(1,0,0)  なのでその大きさは 1  に等しい.
よって線積分を t  積分に置き換えると

と求まる.
2つ目の区間 \gamma_2  をパラメータとして y=t,\,(0\leq t\leq 1)  と選んで式で表すと \boldsymbol{r}(t)=(1,t,0)
よって線積分は

と求まる.
最後に3つ目の区間 \gamma_3  をパラメータとして x=y=t,\,(1\leq t\leq 2)  と選んで式で表すと \boldsymbol{r}(t)=(t,t,0)
このとき \mathrm{d}\boldsymbol{r}(t)/\mathrm{d} t=(1,1,0)  なのでその大きさは \sqrt{2}  に等しい.
よって線積分を t  積分に置き換えると

と求まる.
以上の結果を合わせて,

\textsc{Problem2.}

次のベクトル場を xy 平面内の単位円周 C 上で線積分せよ:

\textsc{Solution.}

円周上の点を x=\cos\theta,\,y=\sin\theta  とパラメータ表示すると

ここで

したがって

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