Prerequisite
2つ目の重要な保存量である運動量について議論しよう.
個の質点のNewton方程式を考えその総和をとる:
両辺を初期時刻 から任意の時刻 までで積分すると,
左辺は容易に積分が実行できて,
ただし は初期時刻での 番目の質点の速度.つまり,
が成り立つ. ここで
力積
のことを系に作用する力積 (impulse) という.
もし力が相互作用だけで外部からの力などを含まない場合,作用反作用の法則から力の和は打ち消し合い力積が となり,
運動量保存則
となってベクトル は保存する.
これを運動量保存則といい,速度に質量を乗じたベクトル のことを系の運動量 (momentum) という.
運動量と力積はエネルギーの原理における運動エネルギーと仕事に対応している.
簡単な例として1次元における2つの質点の運動量保存則を考えよう.
2つの質点ははじめは十分離れていて相互作用せず,質点1ははじめ速度 で静止している質点2に向かっていくとする.
やがてお互いの距離が十分近づくと相互作用が発生して2質点の速度に変化が生じる.
この様子は衝突のメカニズムを具体的に追求して運動方程式を立てて求められる.
今は衝突をおおまかに見て,その詳細は無視するが衝突後の再び質点どうしの相互作用がなくなった状況を考える.
衝突後の質点1と2の速度を とする.
衝突の際に作用する力は相互作用のみだから運動量保存則が成り立つ:
ここで衝突に関して次の事実を経験則として紹介する.
物体が衝突するときその跳ね返り具合は物体の材質によっている.
ビー玉どうしはよく跳ね返るが,ビー玉をスポンジに衝突させたときはそれほど跳ね返らない.
また例えば衝突したとたんにくっついて一体となって運動を続ける場合もある.
この事実をふまえて2物体の跳ね返り具合を表すものとして次の量を定義する:
反発係数
これを物体1と2の間の反発係数 (coefficient of restitution) という.
の場合は完全弾性衝突といい,エネルギーの損失なく跳ね返る.
一方 の場合は定義から衝突後の2物体の速度は一致している.
これは一体となって運動する場合を表している.
このような衝突を完全非弾性衝突という.
静止した質点2に質点1を衝突させる場合は,
運動量保存則と併せて に関する連立方程式を解けば,
質点2は当然正の向きに動き出すが,質点1は と の大小によって進む向きが変わる.
特に完全弾性衝突 で二つの質点の質量が等しい のときは, となって質点1の速度がそっくりそのまま質点2に移る.
この現象はカーリングやビリヤードなどで正面衝突した際に見られる.
次に速度 で運動する質量 の物体が何らかの機構によって2つの物体に分離する場合を考える.
このときも外力がなければ運動量が保存しなければならない.
たとえば速度 で運動するロケットが後方に(ロケットから見て)速度 で質量 の燃料を放出する場合,
が成り立つ.
ここで は放出後のロケットの速度, は基準系から見た燃料の速度.
整理するとロケットの速度の増分 は
と求まる.
実際の燃料をジェットとして放出し続けるからロケットの質量 は連続な時間の函数である.
各時刻で質量 のロケットと燃料に関して運動量保存則が成り立ち続けるので時刻 と微小な時間 経過後とで
が成立する.
右辺第2項で となるのは,速度 の定義が で運動するロケットを基準系に選んでいるからである.ただし に変えても結果は同じである.
ここで右辺で の2次以上の項を無視すれば
と書ける.よって
は減少函数なので右辺は正でありロケットの速度は増大することが見て取れる.
両辺を初期時刻 から燃料が尽きる時刻 まで積分すると,容易な計算から
Tsiolkovskyの式
が導かれる.ただし .
は燃料とロケット本体を合わせた質量, は本体だけの質量である.
ロケットのジェット推進の式はTsiolkovskyの式として知られる.
Problems
2質点の衝突の前後でエネルギーが保存するときは反発係数が であることを示せ.
衝突後の速さは,
またエネルギー保存則より
が成り立っている.ここに衝突後の速さの式を代入して少し整理すれば
を得る.これを について解けば が得られる.
一様重力場に逆らって加速するロケットのジェット推進の式を導け.
時刻 から の間の重力による力積は
これを加えて
が成立する. の1次までで整理すれば,
両辺を時刻 から で積分すれば
となる.重力の影響により速度の増分は重力がないときよりも小さくなる.