汎函数微分

普通,函数とよばれるものは1つの実数(複素数)から1つの実数(複素数)への写像のことである.
これを拡張して複数の実数から1つの実数への写像である多変数函数とか,複数の実数から1つのベクトルへの写像であるベクトル値函数とかを定義できる.
さらにこの概念を拡張してみよう.
連続無限個の実数から1つの実数への写像を考える.
これを普通の函数と区別して汎函数 (functional) という.

多変数函数の各変数は自然数のラベル i  が振られていて x_1,\cdots,x_n  のように書く.
このラベルを連続な実数 t  に置き換えて x(t)  としよう.
これはもちろん x  t  の函数である,とみても良い.
その際 x(t)  はなめらかであるとする.
汎函数は函数の値域全体を引数に持つので,それを明示するために丸括弧 (\quad)  ではなく角括弧 [\quad]  を用いて F[x]  などと書く.

汎函数微分は普通の微分の変数の数が可算個から連続無限個に拡張されただけなので,ここでは簡単に可算個の場合から類推して定義する.
汎函数 F[x]  x(t_1)  による微分を,

汎函数の微分係数

と書いたときの1次の項の係数によって定義する.
これは変数が可算個のときTaylorの定理によって微分を定義するのと同じである.
比較のために多変数の場合のTaylor展開は,

多変数のときすべての変数に渡って和をとるために \sum  があるように,汎函数でも和を取る意味で積分 \int\mathrm{d} t  が現れている.
とくに汎函数が x(t)  自身のときは1次までで,

両辺が一致するためには,

対応する多変数の場合の式は,

したがってKroneckerのデルタとデルタ函数とが対応することがわかる.

他の例も見ていこう.
一つ目は F[x]=x(t)^2  のとき,

なので係数を比較して,

この例は無限個あるうち特定の t  での x(t)  にしか依存しないので特殊である(実質的には1変数函数).

二つ目に F[x]=\int\mathrm{d} t\,x(t)^2  では,

なので係数を比較して,

上記の例を一般化して x  の函数 f(x)  に対して F[x]=\int\mathrm{d} t\,f(x(t))  とすれば

となるから右辺で x(t)  まわりのTaylor展開を行えば

が得られる.
またTaylor展開の任意の高次をとることで任意の高階汎函数微分も計算できる.

次に導函数 \dot{x}(t)  の汎函数微分を考えよう.
こちらも定義通りに変形していけばよい:

2つ目のイコールは部分積分による.
表面項は端点固定の境界条件 \delta x(t_i)=\delta x(t_f)=0  によりおとした.
係数を比較して,

多変数函数で対応するのは変数の差 x_{i+h}-x_i  x_j  微分である.
\dot{x}  は汎函数微分の観点からは異なる2つの変数 x(t+h)  x(t)  の差にすぎない.
任意の \dot{x}  の函数 g(\dot{x})  に対し F[x]=\int\mathrm{d} t\,g(\dot{x}(t))  を考えると変分は

となる( \cdots  は高次項).
部分積分を行い境界項を落とせば

を得る.

では次のような汎函数の汎函数微分を考えよう:

これは作用積分と全く同じ形をしている.
これまでの規則をあてはめて,

L  の微分はまず x  \dot{x}  を独立変数と思ってTaylor展開したのちに軌道の式 x=x(t)  とその時間微分 \dot{x}=\dot{x}(t)  を代入していることに注意せよ.
第二項は部分積分を行って,

となる.
ここでも端点固定の境界条件を課して表面項を落としている.
したがって係数を比較すれば,

通常は右下にある軌道の式の代入の注釈は省略される.
この式にしたがって最小作用の原理を言い換えると,作用がある軌道 x(t)  の変分に対して停留するならば,それは運動方程式の解であり,実際に実現される軌道である:

こうして最小作用の原理からEuler–Lagrange方程式が導かれる.

最後に汎函数,

を考える.
これは統計力学での外場があるときの分配函数,場の理論での生成汎函数(の被積分函数)と似た形である.
指数汎函数は普通の指数函数と同様に定義されている.
函数は可換なので指数法則が成り立つ:

F[x(t)]  の一階微分を計算するには定義と指数法則より,

うしろの \cdots  \delta x  の2次以上を省略している.
こうして,

この導函数はふつうの指数函数の微分の式

とちょうど対応している.
同じことだが F  j(t)  についての汎函数とみることもできるので, j(t_1)  による汎函数微分は,

となる.
両辺で j=0  とすれば F[0]=1  だから次の等式が成り立つことがわかる:

n  j  で微分して最後に j=0  とすれば,

を得る.
つまり x  の積が F  の微分によって生成される.

\textsc{Problem. }

次の作用汎函数に対し汎函数微分を行って運動方程式を導出せよ:

\textsc{Solution. }

最小作用の原理よりNewton方程式 m\ddot{x}=-\mathrm{d} V/\mathrm{d} x  がしたがう.

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