極限

Prerequisite

微分を導入するために,また函数のふるまいを調べるために極限とよばれる操作を導入しよう.
ここでの議論は1変数函数 x=f(t)  のみに限る.

簡単な例から始める. x=1/t  t=0  以外の点で値が定義されている.
t  2  に限りなく近づくと x  1/2  に限りなく近づいていく.
t  を限りなく大きくすると x  は限りなく 0  へ近づいていく.
このように変数をある値 t_0  に近づけたときに函数がある値 a  に限りなく近づくことを収束する (converge) といい

とかく.

変数を限りなく大きくするときは \infty  という記号を用いて

とかく.負の方でも同様であり

とかく.

他方で三角函数 x=\sin t,\,x=\cos t  などで t  を大きくしても x  -1  +1  の間を変動し続け,決して特定の値に収束しない.
このように値が1つに定まらない場合は振動するという(特に記号はない).

多項式 x = t^n\,(n\in \mathbb{N})  や指数函数 x=b^t,\,(b>1)  などで t  を限りなく大きくしていくと x  は限りなく大きい値になり特定の値に収束しない.
このように限りなく(絶対値が)大きくなり続ける場合は発散する (diverge) といい

と表記する. \infty  は便宜的な記号であり,数字ではないことに注意せよ.
つまり発散している場合も定まった値は存在しない.

最初の例 x=1/t  に戻ろう. t  0  に近づけるとき,正の側から近づけると x  +\infty  へ,負の側から近づけると -\infty  に発散する.
函数によっては近づき方によって極限値が異なることがある.
そこで正の側から近づけるとき t\to t_0+0  (右極限)とかき,負の側から近づけるとき t\to t_0-0  (左極限)とかく.
もしこの2つの極限が収束しかつ t=t_0  での値と一致するとき

函数 x=f(t)  t=t_0  において連続 (continuous) という.

たいていの初等函数は全ての点において連続である.しかし x = 1/t  t=0  において発散しているので不連続である( t\neq0  では連続).
もっと簡単な不連続函数の例は階段函数

階段函数

である. \lim_{t\to+0}x = 1  かつ \lim_{t\to-0}x=0  なので t=0  において収束するが両者が一致せず不連続である.

2つの函数 f,\,g  が両方とも t=t_0  において連続ならば以下の函数も t=t_0  において連続である:

ただし3つ目に関しては g(t_0)\neq 0  でなければならない.

以下にいくつか極限の公式をあげておく:

ただし n  は正の整数.

正弦函数に関して

という重要な極限値がある(証明略).

最後に指数函数に関しても重要な極限

が成り立つ.ここで e  Napier数と呼ばれる無理数である:

Napier数

上では極限操作を「限りなく近づく」という言葉でかなり曖昧に定めた.
しかし近づき方には左右の任意性があり,多変数函数の場合にこの定義は破綻してしまう.また限りなくということが数学的に表現される必要がある

ある函数 x=f(t)  において t  を有限の値 t_0  に近づけたときある有限の値 a,\,(a\in\mathbb{R})  に収束することを次のように定義する:

収束

このとき \lim_{t\to t_0}f(t)=a  とかき函数 f  t\to t_0  a  に収束するという.この定義を慣習的に使われる文字からとって \epsilon \delta  論法 (( \epsilon,\delta  )-definition of limit)という.
定義を補足すると,任意の \epsilon  とは「どんなに小さい任意の \epsilon  をとってきても」と解釈する.その小さい \epsilon  に対し必ずある数値 \delta  が存在してs.t.以下を成立させる.
s.t.以下は f(t)  a  の差が \epsilon  未満となるように t  t_0  へ近づけられることを示している.
\delta  \epsilon  a  によって決まる.

\epsilon \delta  論法を用いて連続を再定義する.
函数 x=f(t)  t=t_0  で連続であるとは

函数の連続

0<|t-t_0|<\delta  と絶対値表記されているので左極限と右極限がまとめられており,近づき方の任意性が排除されている.

連続函数の性質を示しておこう.
まず函数 x=f(t)  に対し次の定理が成立する:

連続函数の性質

f t=t_0 において連続かつ f(t_0)>0
\Rightarrow   t_0 の十分小さな近傍で f(t)>0 .

ここで t_0  近傍 (neighbourhood) とは t_0  を含むような開区間のことである.この定理はどんなに f(t_0)  0  に近くてもその間に「隙間」が生じることを述べている.
では定理を証明しよう. t=t_0  において連続なので,

が成り立つような \delta  が任意の \epsilon  に対して存在する. 絶対値を外せば,

そこで \epsilon=f(t_0)/2  にとって,それに応じた \delta  をとれば

註)ここでは \epsilon=f(t_0)/2  に選んだが, 0<\alpha\leq1  として \epsilon=\alpha f(t_0)  の形であればなんでも良い.

が開区間 [t_0-\delta,\,t_0+\delta]  において成り立つ.この開区間は t_0  の近傍だから所期の結果を得た.
同様に f(t_0)<0  に対しても十分小さな近傍で f(t)<0  が成り立つ \Box

次に中間値の定理 (intermediate value theorem) を示そう

中間値の定理

函数 x=f(t) が閉区間 [t_0,t_1] の全ての点において連続かつ f(t_0)\neq f(t_1) のとき

開区間で定義された連続函数は必ずその区間内で両端の間の値を取らなければならないことを主張している.

簡単に証明しておく. f(t_0)<f(t_1)  としても一般性を失わない.

を定義すると g  [t_0,t_1]  で連続函数である.
g(t)  が負の値となるような t  の集合

を考える. f(t_0)<\xi0  であり任意の t\in A  に対して t\leq t_1  である.
よって集合 A  は上に有界である.

註)集合 A\subset\mathbb{R}  が上に有界とは,ある M\in\mathbb{R}  が存在して,任意の a\in A  に対して a\leq M  となること:

上に有界

実数 \mathbb{R}  の連続性より上に有界な集合には上限

が存在する.

註)ある上に有界な集合 A  の上限 \sup A  とは任意の a\in A  に対し a\leq M  となる M  の最小値のことである. \sup A  A  に含まれるとは限らない.たとえば開区間 (a,\,b)  なら上限は b  だがこれは開区間に含まれない.

上限の定義より任意の t\in A  に対し t\leq \tau
g(t_0)<0  だから先の定理より十分小さな \delta  が存在して [t_0,\,t_0+\delta)  において g(t)<0
よってこの区間は A  に包含されていて t\leq\tau  が成り立つ.
\delta>0  なので t_00  ということから \tau<t_1  が導かれる.

g(\tau)<0  と仮定すると先の定理よりある小さな \delta>0  が存在して g(\tau+\delta)<0
ゆえに \tau+\delta\in A  だが,これは \tau  A  の上限であることに反する.
他方で g(\tau)>0  と仮定すると同じく先の定理よりある小さな \delta>0  が存在して g(\tau-\delta)>0
これは上限 \tau  の最小性(任意の t\in A  に対し t\leq M  を満たす M  の最小値)に反する.
以上から g(\tau)=0  でなければならない,すなわち f(\tau)=\xi  がしたがう \Box

Problems

\textsc{Problem1. }

右極限と左極限を \epsilon \delta 論法を用いて定義せよ.

\textsc{Solution. }

右極限:

左極限:

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