Prerequisite
静電場に関する微分形のGaussの法則
を積分形に書き換えることができる.
ここで は真空の誘電率.
両辺を任意の閉領域 上で体積積分すると,
右辺の積分はこの体積の内部にある全電荷に等しい.
全電荷を とおこう.
一方左辺はGaussの定理から,
右辺の表面積分はいま考えている閉領域 の表面 にわたる積分で はこの表面上外向きの法線ベクトルである.
2つのことを合わせると,
となる.
こちらを積分形のGaussの法則という.
この節では定数 について考える.
ここまでは荷電粒子の分布のみを考えてきたが, その荷電粒子以外の領域は真空を暗に仮定してきた.
真空のときGaussの法則は正しく,定数 は「真空の」誘電率と呼ばれる.
しかしたとえば金属や結晶の中の荷電粒子がつくる静電場は事情が著しく異なってくる.
このような物質の中では という量が物質によって性質を変えてしまうため,Gaussの法則に修正が必要になる.
物質によらず電荷の値には変更がないので,物質中の電荷の量から という場をGaussの法則
または
で計算する.
これと物質中の位置 で点電荷が感じる場 (ただし はその影響が無視できるくらい小さい)を比較することで関係式
を得ることができる.
特定の物質の場合にはこの関係式が簡単化される.
特に等方的な物質の場合には関係式は最も簡単になって,
となる.
註)ここでは静電場の強さと電束密度の間に強い制限を設けている.
一般には非線型な関係がありうる.
また線型としても定数項と成分の混合が存在しテンソル量で結び付けられる: .
この上にさらに かつ は単位行列のスカラー倍の形 を仮定している.
比例係数 を誘電率 (electric permittivity) といい,物質により異なる値を持つ.
特に真空の場合は である.
真空以外では物質を構成する分子や電子が複雑に相互作用をして巨視的な場の性質を決定する.
たとえば誘電体と呼ばれる物質中に点電荷を置くと,誘電分極という性質によって真空中に作るはずの電場の強さよりも弱くなる.
すなわち誘電率が真空より大きくなる.
巨視的な物体の電磁気学は熱力学の章で論じる.
場 を考察するために積分形のGaussの法則をみてみよう.
で書かかれたGaussの法則は物質に依存する定数が消えている.
真空中の点電荷の場合,原点にある点電荷が真空中に作る は球対称な形をしていて距離 にしかよらなかった.
積分する閉曲面は任意にとってこられるから,点電荷を中心にもつような球面をとる.
すると法線 と はどちらも球座標の動径方向で平行となる.
この性質から物質によらず は中心から放射状にのびるベクトル場であることがわかる.
これを可視化するためにこのベクトル場をつなげて電気力線 (line of electric force) とよばれるもので図示する.
閉曲面から出る電気力線の本数は内部の点電荷の大きさに比例するように描く.
この描像では「電気力線の本数(電束)は閉曲面内部の電荷に比例する」というのが積分形のGaussの法則の解釈になる.
この解釈のもとで は電気力線束の面密度であるので電束密度 (electric flux density) とよばれる.
電束密度の単位は,
である.
一方 の方は物質によらず荷電粒子の受ける力に比例するので電場の強さとよばれる.
以上のことからGaussの法則は電束密度に関する方程式であるということがわかる.
静電場の強さに対して成立するのは単純な関係が仮定されているときだけである.
一方で保存力条件は に対しては一般には成立しない.
力に関係するのは電場の強さ であり,電束密度 ではないことに注意せよ.
この章では特に断らない限り真空中における電磁場に限定し常に, が成り立っているとする.
静電場に関する2つの方程式をもう一度記しておこう:
静電場の方程式