Prerequisite
ここでは気体分子間に相互作用として がはたらく場合を考えよう.
は二分子間の距離.
実際分子間に働く力はCoulomb力に起因し,たとえばLennard-Jonesポテンシャル,
によるモデルが有名である.
であり 乗の項が分子間の斥力に対応し, 乗の項が分子間の引力(van der Waals力)に相当する.
なかでもよく用いられるのは のモデルである.
斥力は分子の大きさ程度で非常に大きくなり,分子がお互いに重なり合うことを禁止する.
この分子の大きさの情報はパラメータ に込められていて, 付近でポテンシャルが大きく立ち上がり斥力となる.
一方,分子間の引力の存在によってポテンシャルは最小値をもつ.
その深さ(引力の強さ)の情報は に込められている.
一般に気体分子間の相互作用は分子の大きさと引力の強さで特徴付けられる.
相互作用 を に零点( )をもち で最小値 をとるとする.
これを2つの気体分子間の相互作用として採用する.
Hamiltonianは
ここで .
カノニカル分布の分配函数は
運動量についてはGauss積分により
となる.
一般に後ろの座標に関する積分を実行することは難しい.
ここでは希薄気体を仮定して積分を評価しよう.
まず二分子が十分離れていると となり相互作用は無視できる.
このとき は小さい値を持つ.
そこで
Mayer函数
を定義する.
これをMayer函数という.
Mayer函数を用いて分配函数は
と書き換えられる.
希薄気体では は小さいので展開すれば
となる.
以降を無視する近似は次のように解釈できる;
分子の気体のうち3個以上の分子が同時に近づいて相互作用が発生することはないくらい希薄である,という近似と解釈できる.
第1項は相互作用なしを表し,第2項は二分子の相互作用の事象の組み合わせによる足し上げである.
分配函数を理想気体の分配函数の部分と補正項に分解して
とすると,
では の1次の項を評価していこう.
積分値は二分子の選び方によらないので
とできる.
は大きいので とする.
Mayer函数は二分子間の距離にしか依存しないので,重心座標と相対座標 に変数変換して
ここで .
分配函数の補正項は
となる.ここで
この補正項はたしかに希薄な密度 による1次補正になっている.
ただし .
ここから圧力は
と計算される.
これは理想気体の状態方程式に補正項 が加わったものである.
さらに十分高温 の場合を考えよう.
このときポテンシャルをほとんどL字型と捉えて
と近似する.
つまり では強い斥力がはたらき, では弱い引力がはたらくとする.
すると極座標表示して積分を分解すると
ここで は温度によらない定数で
とおいた( では に注意せよ).
は引力による効果を表す定数で, は斥力による効果,つまり分子の体積による効果を表す.
このとき状態方程式は
いま二体同時の相互作用までを仮定しているので分子間の距離は系のサイズに比べて十分小さい.
よって を仮定して と変形する.
状態方程式は
van der Waals状態方程式
となる.
これはvan der Waals状態方程式である.
希薄気体の状態方程式を小さい密度 で
のように展開することをビリアル展開 (virial expansion) といい,各冪の係数 をビリアル係数という.
一般のビリアル係数はクラスター展開の方法によってMayer函数の積分として与えることができる.
クラスター展開については節を改めて紹介する.