散乱問題; Coulombポテンシャル

Coulombポテンシャル(斥力)による散乱;右図のように軌道を回転して観察する.軌道の回転がわかりにくい場合は xy  座標軸の方を回転させてみるとよい.

Coulombポテンシャルによる散乱問題を考察しよう.
Coulombポテンシャル V(r)=-\alpha/r  があるときの粒子の軌道は

ここで,

であり L  は質点の角運動量, m  は質量, E  はエネルギーである.
初期条件を無限遠から速さ v_{\infty}  で入射させると E=mv_{\infty}^2/2  である.
散乱問題を考えるので引力 \alpha>0  の場合は \epsilon>1  の双曲線軌道の場合を考える.
斥力 \alpha<0  の場合は常に双曲線軌道となる.
漸近線は,

であるが,散乱角 \theta  はまさにこの2つの直線のなす角である.
ところがこの漸近線の式というのは双曲線を x^2/a^2-y^2/b^2=1  の形で見たときのものである.
散乱理論の設定では双曲線軌道の片端が無限遠で x  軸と平行になるような平面をとっていた.
それゆえに漸近線の式をそのような xy  平面で見たときのものに変換しなければならない.
そのためには漸近線の片方の傾きが 0  になるように軌道全体を原点周りに回転させれば良い.
ゆえに回転角度を \delta  とおくと,

が成り立つ.
座標変換の式は,

である.
新たな x'y'  平面で見た漸近線の式は \sin\delta=\sqrt{1-(1/\epsilon^2)},\,\cos\delta=1/\epsilon  などに注意して,

と求まる.
ここでは2つの漸近線のうち傾きが正の方を選んだ.
この漸近線はたしかに x  軸と平行で \gamma\cot\delta  だけ離れている(斥力ならば x  軸の上側,引力ならば下側に位置する).
新しい座標系において初期条件を時刻 t=-\infty  において (x'(-\infty),\,y'(-\infty))=(-\infty,\,-b)  かつ (v_x'(-\infty),\,v_y'(-\infty))=(v_{\infty},\,0)  とする.
これから,

とわかる.
角運動量が保存量なので,

が時間によらず一定である.
ここで \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}_x+\boldsymbol{r}_y  と各座標軸に平行な成分に分解すると,はじめの時刻においては \boldsymbol{v}  x  軸に平行なので \boldsymbol{r}_x\times\boldsymbol{v}=0  でなければならない.
したがって,

と求まる.
一方で回転角 \delta  と散乱角 \theta  の関係はグラフから読み取ることができて,

である.
三角函数の公式から \tan[(\pi-\theta)/2]=\cot(\theta/2)  であることを用いれば,

となって所期の衝突パラメータと散乱角の間の関係式が得られた.

断面積の公式へ代入して微分散乱断面積を求めてみよう.
衝突パラメータは \theta  にしか依存していないので \mathrm{d}\Omega=2\pi\sin\theta\mathrm{d}\theta  となって,

衝突パラメータの式を代入して微分を計算すると,

\sin\theta=2\sin(\theta/2)\cos(\theta/2)  を用いると結局,

Rutherford散乱断面積

という結果が得られる.
これはRutherford散乱断面積と呼ばれる.
全散乱断面積は,

いまCoulombポテンシャルのソースは原点に固定している.
これはソースの質量 M  が非常に大きいため運動が無視できるという近似であった.
しかし厳密にははじめ静止していたソースにはいくらかのエネルギーが与えられている.
エネルギー保存則から質点が飛び去った無限遠での速さ v_f  とソースの速度 V  について

が成り立つ.
運動量 p=mv  に書き換えて 1/M  の項を無視すれば

すなわち p_{\infty}\simeq p_f  が得られる.
一方で全運動量の保存則から

も成り立つ.
運動量 \boldsymbol{p}_{\infty}  \boldsymbol{p}_f  がなす角は散乱角 \theta  であるから内積の性質から

の関係が導かれる.
1-\cos\theta=2\sin^2(\theta/2)  を用いて,

この関係を使ってRutherfordの公式から散乱角を消去できて

を得る.

GeigerとMarsdenが行った金原子にアルファ粒子を衝突させる散乱実験の結果に対して,Rutherford(1911)は散乱断面積の公式を用いた理論的説明に成功した.
詳細は電磁気学の章に委ねる.

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