天体の三体問題

二体問題は重心座標と相対座標に分離できれば比較的容易に解くことができた.
特に2つの物体に働く力が距離(相対位置ベクトルの大きさ)のみに依存するならば2つの方程式は独立になる.
しかし三体以上では仮にこのような力のみであっても厳密解を一般的に求めるのは非常に困難である.

Coulombポテンシャルのような簡単な場合でも難しさは変わらない.
ただ実用上,重力相互作用する多体系の問題は宇宙工学や天文学において重要である.
この節では三体問題 (three body problem) にいくつかの制限を課すことで解を導こう.

重力相互作用する3つの天体の運動方程式は

あるいはまとめて

である.

この方程式に対してまず1つ目の仮定として,3つの天体は同一平面上を運動するとしよう(平面三体問題).
そしてその平面上に xy  座標系を適当に設定して二次元の問題として捉える.
平面と直交する z  軸方向の運動は考えない.

さらに2つ目の仮定として3つの天体のうち2つは残りの1つより非常に重く m_2,\,m_3 \gg m_1  が成り立つとしよう(制限三体問題).
すると \boldsymbol{r}_2,\,\boldsymbol{r}_3  の運動方程式に着目すると m_1  を含む項は相対的に無視できて

としても良い.
よって \boldsymbol{r}_2,\,\boldsymbol{r}_3  については二体問題として扱うことができて重心座標 \boldsymbol{r}_{G}  と相対座標 \boldsymbol{r}_{23}=\boldsymbol{r}_3-\boldsymbol{r}_2  に分離できる.
Coulombポテンシャルの一般論から重心座標は等速直線運動し,相対座標の運動方程式は

となり楕円,放物線,双曲線のいずれかの軌道となる.

さらに仮定としてこの重たい2つの天体の軌道は円軌道であるとしよう(円制限三体問題).
円軌道の場合は半径 r_{23}  が一定で角速度は

で一定となる( M_{23}  は角運動量で時間に依らない定数).
円軌道の場合は離心率 \epsilon=0  に対応し r_{23}=\gamma=M^2/(\mu Gm_2m_3)  なので角運動量を消去して

の関係を得る.
相対座標の軌道は

となる.

回転座標系から見た三天体の位置関係

原点を m_2,m_3  の重心にとり角速度 \omega  で回転する座標系に移る.
回転座標系での基底は

にとる.
平面 z'=0  上の任意の位置ベクトルは \boldsymbol{r}=x'\boldsymbol{e}_{x'}+y'\boldsymbol{e}_{y'}  と展開できる.
相対座標については \boldsymbol{r}_{23}=r_{23}\boldsymbol{e}_{x'}  で静止して見える.
重たい二天体 \boldsymbol{r}_2,\,\boldsymbol{r}_3  \boldsymbol{r}_G=\boldsymbol{0}  のことから

の位置で静止していることがわかる.

この回転座標系から残りの軽い天体の運動を見ていこう.
基底 \boldsymbol{e}_{x'},\,\boldsymbol{e}_{y'}  が時間に依存し \dot{\boldsymbol{e}}_{x'}=\omega\boldsymbol{e}_{y'},\,\dot{\boldsymbol{e}}_{y'}=-\omega\boldsymbol{e}_{x'}  となることに注意して加速度は

したがって運動方程式の成分はそれぞれ

ここで

得られた運動方程式は依然として複雑であり解析的に解くのは難しい.
そこで軽い天体が重たい天体と共動する場合,すなわち今考えている回転座標系で三天体が全て静止して見えるような定常解を求めてみよう.
このとき \ddot{x}'_1=\ddot{y}'_1=0  でかつ \dot{x}'_1=\dot{y}'_1=0  なので方程式はさらに

に還元される.

2つ目の方程式に \omega  の定義を代入すると

となる.
すなわち

である.
前者 y_1'=0  の場合では, x_1'  についての方程式

が成立する.
左辺を x_1'  の函数 f(x_1')  とおく.
グラフから明らかなように f(x)  x<-pr_{23}  -pr_{23}<x<(1-p)r_{23}  (1-p)r_{23}<x  の3つの範囲に1つずつ零点をもつ.
対応する点をそれぞれ L_3,\,L_1,\,L_2  とラベルする.
このとき y'_1=0  なので三天体は x'  軸上に直線状に並ぶことになる.

函数 f  の概形

次に後者の場合には運動方程式の1つ目の式から

となるから r_{13}=r_{23}  がわかる.
さらに r_{12}=r_{23}  もわかる.
以上からこの場合3つの天体は正三角形をなす.
重たい天体が固定されているときに軽い天体を正三角形を成すように配置できる点は2つ存在しそれぞれ L_4,\,L_5  とラベルする.

Lagrange点

以上から重力相互作用する三体問題で同一平面で2つが重く,円軌道を描く場合の共動解が得られた.
軽い天体が静止できる5点 L_1,\,\cdots,\,L_5  Lagrange点と呼ばれる.
実は L_1,\,L_2,\,L_3  に比べて L_4,\,L_5  の方が外部からの摂動に対して安定的である.
たとえば太陽と惑星をここでの重たい二天体としたとき,Lagrange点 L_4,\,L_5  にあたる領域に共同する軽い天体(小惑星)が安定的に存在できる.
これらの小惑星群はトロヤ群 (Trojan asteroid) と呼ばれる.

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