制動輻射

1個の荷電粒子が加速されると

だけのエネルギー流密度を持った電磁波を放出する.
ここで注目することは荷電粒子が加速度 \boldsymbol{\alpha}  を持っているとき輻射が発生することである.
これを制動輻射 (bremsstrahlung) という.


註)英語ではbraking radiationであるがドイツ語のbremsstrahlungの方を英語圏でも用いる.


前節では制動輻射の非相対論的極限と相対論的極限を与えた.
この節ではより具体的な系において制動輻射のエネルギーを計算してみよう.

まず荷電粒子の速度と加速度が平行な場合 \boldsymbol{\beta}\propto\boldsymbol{\alpha}  から始める.
たとえば線形加速器がこれに当てはまる.
速度方向のベクトルを \boldsymbol{e}_{\beta}=\boldsymbol{\beta}/\beta  とおくと \boldsymbol{\beta}=\beta\boldsymbol{e}_{\beta},\,\boldsymbol{\alpha}=\alpha\boldsymbol{e}_{\beta}  とかける. さらに観測点までの方向ベクトル \boldsymbol{n}  \boldsymbol{e}_{\beta}  がなす角を \theta  とおけば \boldsymbol{n}\cdot\boldsymbol{\beta}=\beta\cos\theta
よって電場の輻射は

と簡単化される.
これからすぐにPoyntingベクトルは

と求まる.

速度と加速度が平行な場合に極座標の函数 r=\mathrm{d} I_{\mathrm{rad}}(\theta)/\mathrm{d}\Omega  としてプロットしたもの. \beta=0.05,\,0.2,\,0.4  (それぞれ青,紫,赤が対応).黒い点線は \beta=0.4  のときの \theta_{\mathrm{max}}  を表す.

単位時間あたり単位立体角あたりに荷電粒子が放出するエネルギーは

によって計算できる.
速度と加速度が平行な場合は

となる.
この函数を \cos\theta  で微分して \mathrm{d}/\mathrm{d}(\cos\theta)(\mathrm{d} I_{\mathrm{rad}}/\mathrm{d}\Omega)=0  の条件からピークにおける角度 \theta_{\mathrm{max}}

と求まる.
\theta=0  (荷電粒子の進行方向)では \mathrm{d} I_{\mathrm{rad}}/\mathrm{d}\Omega=0  であるが,超相対論的極限 \beta\to1  では \cos\theta_{\mathrm{max}}\to1  であり \theta=0  のすぐ両隣に2つのピークをもっている.

角度についての積分を実行すれば \boldsymbol{a}=c^2\boldsymbol{\alpha}  として

を得る(問題参照).
ただしLorentz因子 \gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}  を導入した.

速度と加速度が直交する場合に \varphi=0  のときに極座標の函数 r=\mathrm{d} I_{\mathrm{rad}}(\theta)/\mathrm{d}\Omega  としてプロットしたもの. \beta=0.05,\,0.2,\,0.4  (それぞれ青,紫,赤が対応).

次に速度と加速度が直交している場合 \boldsymbol{\beta}\cdot\boldsymbol{\alpha}=0  を考える.
たとえば円形加速器によって加速される荷電粒子が当てはまる.
座標系としては速度の方向を z  軸に選び,加速度の向きを x  軸に選んで \boldsymbol{\beta}=\beta\boldsymbol{e}_z,\,\boldsymbol{\alpha}=\alpha\boldsymbol{e}_x  とすると後の計算が簡単になる.
そして極座標で方向ベクトルを \boldsymbol{n}=(\sin\theta\cos\varphi, \sin\theta\sin\varphi, \cos\theta)  とおく.
よって電場は

と簡単化される.
Poyntingベクトル

と求まる.
単位時間あたり単位立体角あたりに荷電粒子が放出するエネルギーは

となる.
角度について積分して単位時間あたりの輻射エネルギーを計算すると

を得る(問題参照).

y  軸方向に一様かつ静的な外部磁場 \boldsymbol{\mathfrak{B}}=\mathfrak{B}\boldsymbol{e}_y  が印加されているとき荷電粒子は xz  平面内で円運動をする.
実際,電磁場を固定して荷電粒子のみの運動方程式を解くと

で与えられる半径で速さ v  で等速円運動をする.
このとき加速度の大きさは時間によらずに

である.
それゆえ単位時間あたりに荷電粒子から放出される輻射エネルギーは

となる.
荷電粒子が一定半径で等速円運動するためにはエネルギーが保存している必要がある.
しかし加速度運動に伴う制動輻射によってエネルギーは減少し続ける.
よって実際にはエネルギーの損失によって半径は一定ではなく徐々に小さくなっていくと予想される.
こうした外部磁場による輻射は特に磁気制動輻射,あるいはシンクロトロン輻射と呼ばれる.

シンクロトロンとは円形加速器の一種で,磁場により粒子の軌道を曲げて一定半径に保たせる.
この際にシンクロトロン輻射が発生し,加速粒子のエネルギーがいくらか電磁波として散逸してしまう.
特にその影響は I_{\mathrm{rad}}\propto m^{-2}  であることから加速粒子の質量が小さいほど大きくなる.
他方で加速度が a\propto B/m  なので同じ加速を得るためには質量が大きいほど印加する磁場を大きくする必要がある.

Problems

\textsc{Problem1. }

速度と加速度が平行な場合の輻射エネルギーを計算せよ.

\textsc{Solution. }

\boldsymbol{a}=c^2\boldsymbol{\alpha}  として

とおいて f  を全立体角にわたって積分する:

変数変換 s=1-\beta\cos\theta  を施せば初等的な積分になり,

単純計算により各 s  の冪についての積分は

となるのでこれらの結果を代入して整理すれば

が得られる.

\textsc{Problem2. }

速度と加速度が直交する場合の輻射エネルギーを計算せよ.

\textsc{Solution. }

\boldsymbol{a}=c^2\boldsymbol{\alpha}  として

とおいて f  を全立体角にわたって積分する:

まず \varphi  \cos^2\varphi  でしか現れないので積分は簡単に実行できて

次に \theta  については前問と同様に変数変換 s=1-\beta\cos\theta  を施せば初等的な積分になり,

前問の積分結果を代入して整理すれば

が得られる.

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