Prerequisite
古典的に粒子は何らかの定まった軌道を描くがそれは基本的にはNewtonの運動方程式によって決定された.
しかし運動方程式の形は経験に則ったものでしか与えられなかった.
また粒子の位置を直交座標,極座標などをもちいて表したが,本来物理法則はそのような座標の取り方に依らないはずである.
しかしNewtonの運動方程式は必ず直交座標から出発しなければならず,物理法則の普遍性とは相容れない.
運動方程式が座標や力の種類ではなく,系の状態そのものと結びつく形で定式化されることが望ましい.
この事情は電磁場を議論するときにより明らかになるであろう.
この章では解析力学と呼ばれるNewtonの形式の力学より数学的に洗練された力学を議論する.
解析力学の観点では運動方程式と保存則が1つのスカラー函数と後述する最小作用の原理に込められる.
解析力学の形式には主に2つあって1つをLagrange形式,もう1つをHamilton形式あるいは正準形式という.
Lagrange形式の方がNewton力学に近い形なのでまずこちらを紹介する.
そのあとHamilton形式に移る.
当然のことながらNewton力学を含めどのような形式をとったとしても得られる物理法則は同じである.
しかしながらわれわれに非常に重要で汎用性のある物理法則の解釈を与える.
ひとまず1粒子の系において直交座標から一般のものへ移行しよう.
各 は の函数である.
これを一般化座標 (generalized coordinate) という.
Newton方程式は,力が保存力のときにはポテンシャルが存在して,
であった.鎖法則により速度は,
さらにもう一度時間微分して鎖法則を用いると加速度は,
と書くことができる.同様にして力の方は,
したがって運動方程式は,
この式において力の項の前の係数 で全体をくくることを考える.
そのために第1項と2項を,
と書きかえる.鎖法則からKroneckerのデルタは,
力の項で和をとっている添え字を から に代えて全体を でくくると,
ところで鎖法則を使えば次の微分に関する等式が成り立つことがわかる:
右辺のはじめの2項は運動方程式の右辺に現れる項と同じであるから,
さらに が のみの函数であることに注意すれば,
ここで行列 に逆行列が存在するなら,すなわち であるならば
註)この条件は変数変換 をおこなったときに各 が独立になるように変換されることと同値である.
もし たちが独立でなくてたとえば のように解けてしまうと上の鎖法則は成り立たない.
こういうときははじめから2変数で議論する.
後述するが,この という関係は拘束条件に対応するものである.
上の方程式は各 について成り立ち,
ここで は,
これが一般化座標における運動方程式である.
は定義から対称 を満たす.
重要なことはこの方程式は単一のスカラー函数 の微分方程式になっていることである.
このスカラー函数には粒子と力(ポテンシャル)の情報が込められておりその数学的な扱いは同等である.
このスカラー函数 は対象とする系に対応した物理量であると言える.
以上で所期の結果を得ることができた.次節ではこの方程式をより高い視点から導出しよう.