自由度

Prerequisite

私たちを含めすべての物体は時間のながれる空間,時空間 (spacetime) に存在している.

物体は空間の中で時間の経過とともに動いたり動かなかったりする.
物体が或る時間に或る場所に存在するということを物理学では時刻 (time) と位置 (position) で表現する.
いつかのどこかに基準となるところを定めてやれば,「ある物がこの時刻にこの位置にあった」とか「ある物がこの位置にあったのはこの時刻であった」ということが数によって表現できる.

物の時刻を定めるのには一つの基準となる時刻があって,その時刻からどれだけ経過しているか(もしくはどれだけ過去か)を測りさえすれば定まる.
日常生活ではたいてい西暦0年1月1日を基準としている.

しかし,位置の場合は状況が異なる.
なぜならば物は三次元の空間に置かれたとき,基準となる位置(原点)から測らなければならない量の数は状況によって変わってくるからだ.

自由度;50m走の走者と地球上に立つ人

まず例として50m走を考えてみよう.スタート地点を原点とし,スタートの合図の瞬間を基準の時刻とする.そしてスタートから何秒後かのある瞬間を見たとき,走者がどの位置にいるかはスタート地点から走者までの距離を測りさえすればよく,この1つの値で走者の位置は定まったといえる.

では次に地球で考えてみる.ただし地球は完全な球形としよう.
今度は原点を地球の中心にとって,スタートの合図を基準時刻として何秒後かの或る瞬間を捉えてみる.
地球上を自由に歩き回る人がいるとすると,或る時刻にこの人のいる位置を特定するために測るべき量は経度と緯度の2つであろう.
経度や緯度は赤道と本初子午線を基準としてそこから測った二つの角度で指定する.

中心から地表面までの距離はその人がどこにいようが一定なので測るまでもない.
だから逆に言えば,地球が完全な球ではなく地球の地形,山や海溝を考えれば中心からの距離を測って指定しなければならない.
人間ではなく鳥や飛行機のように空を飛んだり,魚や潜水艦が海に潜るような運動でも位置を定めるには同じく3つの量,経度・緯度・中心からの距離(高度・水深)を測る必要がある.

このような物体の運動を記述する際,位置を定めるために各時刻で測らなければならない量の個数を自由度 (degree of freedom) という.

上の例で言えば,50m走の場合は1,完全な球状の地球の上を歩く人の場合は2となる.
三次元の真空を何の制約もなく運動する粒子(大きさを持たない点)の自由度は3である.
しかし粒子が2個あると物体の位置を定めるにはそれぞれ測らなければならないから自由度は 2\times3=6  で,一般に粒子が N  個あれば自由度は 3N  となる.

2個の粒子が一定の長さを保った結合を成して分子のようになっている状態での自由度はどうなるであろうか.
まず片方の粒子の位置を定めるのに3つ測らなければならない.
後はもう一方の粒子がどの方向にくっついているかを測れば分子の位置は完全に定まってしまう.
したがって測らなければならない量はさらに角度2つ,全部合わせて5つ測れば良いことがわかる.
ゆえに自由度は 5  である.
バラバラの2粒子のときの自由度が 6  であったから分子になっているときは自由度が 1  少ない.

註:結合の長さを R  とすると,半径 R  の球面上のどこかにもう一方の粒子は存在する.
こう考えると完全な球体の地球の例と同じである.

一定長さで結合しているというような条件を拘束条件 (constraint condition) といい,それがないときより自由度がいくらか落ちる.

再び50m走の例を考えると,走者も地球上を走る限りは自由度は 3  (高度を考えないときは 2  )である.
ところが「走者はコースに沿って走らなければならない」という拘束条件のために自由度が 1  に減るのである.

普通,私たちが目にする物体というのは大きさがあり形を持つ.
そのため傾いた状態や回転している状態を区別しなければならない.
すなわち自由度は増える.また普通の物体は変形したりして運動の中で状態が変化することもある.
こうした滑らかな変形などは自由度が無限大である.

しかしながらこれらのことを考慮に入れると力学の基礎を学ぶ上で非常に面倒であるので,まずは大きさを持たず変形しない点状の粒子を扱う.
この仮想的な点状粒子のことを質点 (mass point) という.
以下で物体または粒子と言ったときには,特に断りがない限り,質点を意味することとする.

私たちが物体の運動を考えるときにはその物体とそれを取り囲む状況や拘束条件とを一緒に考察する.
これを物理学的な (system) という.

Problems

\textsc{Problem1.}

2個の粒子がひもで結ばれているときの自由度を数えよ.

\textsc{Solution.}

ひもは縮むことができるため縮んだ長さを測る必要がある.よって自由度は 6  である.ひもによる拘束は自由度を落とさないが2個の粒子の動き回れる範囲は制限される.このような制約は境界条件とよばれる.

\textsc{Problem2.}

空間次元が四次元のとき,真空に置かれた粒子の自由度を数えよ.また一般に d 次元での自由度を数えよ.

\textsc{Solution.}

四次元では三次元のときに加えてもう一つ測る量が現れる.ゆえに自由度は 4  である.1,2,3,4次元の自由度を数えると粒子1個の自由度は 1,2,3,4  である.次元が1つ増えるごとに自由度も1増えると言える.一般に d  次元での自由度は d  である.

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