時間の遅れとLorentz収縮

Aliceからみて x  軸方向に速さ V  で運動するBobの系への変換は

という形にかける.
この節ではLorentz変換から帰結される現象を紹介する.

時間の遅れ

2つの時計を考え原点でぴったりと時刻を同期しておく.
一方の時計はBobとともに x  軸方向に速さ V  で動いており,もう一方の時計はAliceとともに原点に静止し続ける.
Bobの時計の時刻が t'  のときLorentz変換の式から,

ここで t  は「Bobが時刻 t'  を観測する」という事象をAliceが観測する時刻, x  はAliceから見たBobの位置である.
これらから x  を消去してAliceの時刻とBobの時刻の関係,

が得られる.

Bobは光速より遅い V<c  とすると \gamma^{-1}<1  なので, t'<t  である.
すなわちBobの観測する時刻はAliceより遅れている.
たとえばBobが光速の50%の速さで運動しているならば \gamma\simeq1.2  であるから,Bobで 1  秒経ったときAliceでは 1.2  秒経っている.

固有時間

観測者は自身の座標系の空間の原点 \boldsymbol{r}=\boldsymbol{0}  に静止している.
そして自身の時間軸に一致する世界線を描く.
したがって観測者の世界線の間隔は観測者が手元の時計で測った時刻に等しい: \mathrm{d} s^2 = \mathrm{d} t'^2
基準系から見ると \mathrm{d} s^2 = \mathrm{d} t'^2 = (\gamma^{-1}\mathrm{d} t)^2  となる.
こうして計測される時間 t'=\gamma^{-1}t  を運動する観測者(または粒子)の固有時間 (proper time) という.

太陽から核融合反応によってもしくははるかかなたの超新星爆発によって,また様々な要因によって地球にはたくさんの宇宙線が降り注いでいる.
その大半は外側の大気の原子核などと電離反応して地上には届かない.
宇宙線のうちもっとも地上に到達するのはその大気との反応で生成されるミューオン (muon) である.
実験によって計測されたミューオンの寿命は約 2.2\times10^{-6}  sであるが,古典的に考えると粒子はどんなに速くとも平均 3.0\times10^{8}\mathrm{m/s}\times2.2\times10^{-6}\mathrm{s}=6.6\times10^{2}\mathrm{m}  だけしか進めない.
つまり多くのミューオンは 660\mathrm{m}  進んだところで(電子とニュートリノに)崩壊して地上には到達できないことになってしまう.

この矛盾は時間の遅れによって説明できる.
ミューオンなどの宇宙線はほとんど光速に近い速さで降り注いでいる.
先ほど導いた公式でミューオンが光速の 99.9999  %で運動しているとすると \gamma\simeq10^2  となって,到達距離は 66\mathrm{km}  まで伸び地表に届くに十分である.

Lorentz収縮

今度はBobから見て x'  軸に沿って静止する長さ l_B  の棒を考える.
棒はまっすぐな「世界面」を描き, x'  軸との交線の長さが棒の長さ l_B  である.
時刻 t'=0  では片方の端が原点にあり,もう片方は (0,l_B,0,0)  にあるとする.
この棒をAliceから観測すると x  軸方向に速さ V  で運動しているように見える.
Aliceから見た t=0  での棒の長さ l_A  を求めたい.
t=0  で棒の片方の端は原点にあり,もう片方の端は (0,l_A,0,0)  にある.
Aliceからみると棒の両端は傾き \beta=V/c  の直線の世界線を描くので, (x_B-l_A)/(ct_B-0)=V/c  を満たす.
ただし (ct_B,x_B,0,0)  (0,l_B,0,0)  をAliceからみたときの値.
両者はLorentz変換により,

で結ばれる.
これから,

(x_B-l_A)/ct_B=V/c  の関係に代入して l_A  について解けば,

したがってAliceから見ると棒の長さは (1-\gamma^{-1})  だけ縮んで見える.
これをLorentz収縮という.

Lorentz変換によって長さが異なるということは体積も変化を受ける.
例えば x  軸方向のブーストによって x  軸方向には 1/\gamma  倍され, y,\,z  軸方向には変化を受けない.
よってBobの系において体積が V_B  の物体はAliceから観測すると V_A=\gamma^{-1}V_B  となる.

三次元の体積は観測者によって変化するが四次元の体積は不変であることが示される.
一般に積分範囲が任意の四次元の体積積分 \int\mathrm{d}^4 x=c\int\mathrm{d} t\mathrm{d}^3\boldsymbol{x}  を考える.
ここでLorentz変換による変数変換 x'=\Lambda x  を施すと,この変数変換によるJacobianは |\mathrm{det}\,\Lambda|  である.
Lorentz変換の性質 \eta=\Lambda^{\mathrm{T}}\eta\Lambda  の両辺の行列式をとると

なので結局Jacobianは 1  に等しい.
とりもなおさず \int\mathrm{d}^4x'  はLorentz変換後の系で観測した四次元体積であるから,任意の慣性系で四次元体積は不変であることがわかる.

このように光速不変の原理(あるいはLorentz不変性)から導かれる現象は日常の感覚からは外れている.
特に時間の流れ方が相対速度に依存していることは特殊相対性理論において象徴的である.
次節からはこうした時間や空間の性質の諒解の上で粒子の運動について考察していくことにする.

時間の遅れとLorentz収縮” への2件のフィードバック

    1. 指摘ありがとうございます
      たしかに光速をかけ忘れている箇所がいくつかありました
      修正済みです

      いいね

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