Laplace–Runge–Lenzベクトル

Coulombポテンシャルのもとでの質点の運動には特別な保存則が存在する.
まず簡単にCoulombポテンシャル V(r)=-\alpha/r  について復習しよう.
運動方程式から導かれる質点の軌道は,

と与えられる.
E  エネルギーで, M  は角運動量で,

と定義され( \boldsymbol{p}=m\dot{\boldsymbol{r}}  運動量),中心力場下では両方とも保存量である.
また \epsilon  は離心率といい,軌道の形を決めるパラメータである.
この節では引力 \alpha>0  で楕円軌道 0\leq\epsilon<1  の場合を考える.

次で定義されるベクトルは保存量である:

Laplace–Runge–Lenzベクトル

このベクトルはLaplace–Runge–Lenzベクトル,または短くLenzベクトルという.
以下ではLRLベクトルと呼ぶことにする.
LRLベクトルが保存量であることを示そう.
時間で微分すると,

となる.
第2項は角運動量保存則より落ちる.
第1項は運動方程式 \dot{\boldsymbol{p}}=\boldsymbol{F} = -\boldsymbol{\nabla} V(r)  を用いて,

角運動量の定義を代入して, \boldsymbol{r}\times(\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p})=(\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{p})\boldsymbol{r}-r^2\boldsymbol{p}  より,

となる.
第3項の時間微分を計算すると,

となる.
ただし2つ目の等号では \dot{r}=(\boldsymbol{r}\cdot\dot{\boldsymbol{r}})/r=(\boldsymbol{r}\cdot\boldsymbol{p})/(mr)  を用いた.
これは第1項とキャンセルし,結局 \dot{\boldsymbol{A}}=\boldsymbol{0}  がわかる.

LRLベクトルの大きさを計算しよう.

2つ目の等号では (\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})^2=A^2B^2-(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})^2  であることと \boldsymbol{p}  \boldsymbol{M}  が直交すること,スカラー三重積の公式を用いた.
最後の式で (m\alpha)^2  でくくると,LRLベクトルの大きさが,

であることがわかる.

LRLベクトルと近点

近点(質点が最も焦点に近づく点)の座標を \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}_P  とおくと,この座標において \boldsymbol{r}_P\cdot\boldsymbol{p}_P=0  が成り立つ( \boldsymbol{r}_P=r_P\boldsymbol{e}_r  であり,運動量は近点で転回するので動径成分は 0  より導かれる).
近点での角運動量の大きさは M=p_Pr_P  ,離心率は,

となる.
これらを用いて近点におけるLRLベクトルを計算すると,

がわかる.
つまりLRLベクトルは質点の運動の間,近点の位置ベクトルと同じ方向を向き,大きさは m\alpha\epsilon  のままのベクトルである.
近点が時間によらず動かないことは軌道の不変性を意味する.
すなわち軌道が閉じる.
これはLRLベクトルが保存するCoulombポテンシャルに特有な現象である.

LRLベクトルと位置ベクトルの内積をとると

左辺において \boldsymbol{A}  \boldsymbol{r}  がなす角を \theta  とおけば |\boldsymbol{A}|r\cos\theta = m\alpha\epsilon r\cos\theta  となる.
一方右辺ではスカラー三重積の公式から (\boldsymbol{p}\times\boldsymbol{M})\cdot\boldsymbol{r}=M^2  なので

これを整理すれば再び軌道の式を得る.

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