Prerequisite
前節で二体系の角運動量の合成についての一般論を述べたので,この節では具体的な計算を行なって理解を深めよう.
Clebsch–Gordan係数は
で定義され合成系の固有値 は二体系の角運動量の大きさに依存しており
をとる(ここでの の取りうる範囲は与えられた のもとでの範囲).
また以下では下降演算子 の作用
を用いる.
[角運動量0との合成]
まずは角運動量の大きさが の系と の系の合成を考えよう.
の方は固有状態は あり, の方は のみである.
よって二体系のテンソル積の基底も 個である:
合成系の角運動量の大きさの固有値は のみをとり, を取りうる.
したがって最大固有状態を
で定めると残りはこの状態に下降演算子を作用させて得られる.
以下同様に がわかる.
片方の角運動量が の場合は合成してももう一方の系の角運動量の固有状態と同じ構造となる.
[スピン1/2どうしの合成]
2つのスピン の系の合成を考えよう.
スピンの大きさが の場合 成分の固有値は の2つが存在する.
二体系のテンソル積の基底は全部で4つ:
スピン の場合は , と略記して,
とすることが多い.
合成系のスピン演算子を を定義し大きさの演算子 と 成分 の同時固有状態 をとる.
(ここまでの記法では と書くべきところを後ろのラベルについては省略した)
これはClebsch–Gordan係数を用いて
と展開できる.
合成系のスピンの大きさは をとることができ,それぞれで 成分は と をとることができる.
まず最大固有状態 は
によって定めることができる(つまり ).
下降演算子 を作用させて の固有値を下げていく:
一体系に下降演算子を作用させると なので
したがって
さらに より
より
が得られる.
最後に のときは のみで は固有状態 と直交するように選ぶ.
この固有空間の基底は と なのでそれらの線型結合で
とおく.
より がわかる.
あとは規格化条件により と(位相因子を除いて)定まるので
と決まる.
こうして合成系の4つの基底を得ることができた.
の3つの組み
をスピン三重項 (spin triplet) という.
一方で の1つの状態をスピン一重項 (spin singlet) という
スピン のときは各スピンは2つの固有状態をもつのでテンソル積空間の基底は であり,合成系では三重項と一重項の であり過不足がない.
これらの状態の詳細については量子統計力学の章で議論する.
[軌道角運動量とスピン1/2の合成]
軌道角運動量 とスピン の合成を考えよう.
二体系のテンソル積の基底は全部で 個である:
合成系の角運動量演算子を とおく.
大きさの演算子 は または をとることができる.
まず最大固有状態は
によって定めることができる.
下降演算子 を作用させて固有値を下げていく:
ただし .
の への作用を調べる. なのでこのうち残る項は
だけである.
したがって
のときは第一項は最低状態に下降演算子が作用して落ちるので
となる.
これ以上下降演算子をかけても新しい状態は得られない.
次に の固有値のラベルが のときを考える.
の固有値 は の範囲において固有空間の次元は である.
基底の片方は の固有状態 とすると,もう一方が に属していてこれと直交するように定めれば良い.
この条件と規格化条件から
が得られる.
もともとの二体系には 個の基底が存在し,合成系にも 個存在し過不足がない.
Problem
2つの系の角運動量が両方 のときのClebsch–Gordan係数を求めよ.
角運動量の大きさが のときは 成分は を取りうる.
よって二体系には 個の基底
が存在する.
合成系の角運動量の大きさは を取りうる.
まず のときは 成分の固有値は をとる.
最大固有状態 を
で定める.
下降演算子 を作用させて固有値を下げていく:
であり,
( )を用いて計算すれば
がわかる.
次に についてみていく.
成分の固有値は をとり,このうちで最大の固有状態 は と直交するように選んで
がわかる.
下降演算子 を作用させて固有値を下げていく:
右辺の計算を進めると
最後に についてみていく.
成分の固有値は で のみが許される.
の固有空間の次元は であり,他の2つの固有状態 と のどちらとも直交するように選ぶ.
とおいて の条件と規格化条件から
と定まる.
もともとの二体系には 個の基底が存在し,合成系にも 個存在し過不足がない.