Prerequisite
前節まで議論してきたFourier展開は有限区間上で定義された函数 を対象としていた.
この節では実数 全体で定義される函数 に対して同様の展開ができないか考えていきたい.
区間 上で定義された自乗可積分な複素数値函数 のFourier展開は
であり,各Fourier係数 は
で与えられる.
素朴に区間を実数全体に広げるには の極限を考えれば良い.
このとき函数の内積は
で定義される.
Fourier展開でFourier係数をあらわに書くと
となる.
ここで新たな変数 とおくと
ただし とした.
とすると であり,区分求積法より に関する和を に関する積分に置き換えることができて
を得る.
新たに の函数を
Fourier変換
とおけば,
Fourier逆変換
と書き換えることができる.
これが実数全体におけるFourier展開の式であり, を のFourier変換,上式をFourier逆変換と呼ぶ.
Fourier変換の最も重要な例として次のGaussianで計算してみよう:
GaussianのFourier変換は指数部分の平方完成により
となる.
つまりGaussianのFourier変換もGaussianの函数形をもっている.
ゆえにFourier逆変換は同様の計算により
となり元の函数に戻ることが確かめられる.
Fourier展開のときと同様にFourier変換にも数学的な問題が残っている.
1つはFourier変換の広義積分の収束性の問題,もう1つは逆Fourier変換がもとの函数 に収束しているかという問題である.
以下ではこの2点について簡単に触れておこう.
急ぐ読者は最後の結果を確認して次の節へ進んでも差し支えない.
まずある 上で定義された函数 が絶対可積分 (absolutely integrable) とは,
絶対可積分
を満たすことである.
絶対可積分函数全体の集合を と表記する.
重要な性質として
であるから が絶対可積分ならば は積分可能である.
また積分区間の端では
が言える.
これは直感的にも明らかで積分の端へ行けばいくほど積分値は減少しなければ広義積分は収束することができない.
が絶対可積分ならばFourier変換において の絶対値をとると三角不等式により
となり は収束していることがわかる.
Fourier逆変換によりもとの函数に戻ることを示そう.
そのためにGaussianではこのことが満たされることを用いる.
さらに新たな函数の積の記号
畳み込み
を導入する.
変数変換 により がわかる.
積 は と の畳み込み (convolution) と呼ばれる.
任意の とGaussian の畳み込みについて
ただし3行目へは積分の交換を行なっているが,これはFubiniの定理によって保証されているとして認める.
最後の式の2つ目の積分では変数変換 によって に等しいことがわかる.
したがって
となる.
この事実は任意の函数どうしの畳み込みに拡張できる(次節参照).
次にGaussianのパラメータについて の極限をとると
としてデルタ函数に等しいことを用いる.
畳み込みにおいてこの極限をとると
となる.
ただしここでは積分と極限の交換を行なっているが,これは優収束定理によって保証されているとして認める.
他方でGaussianのFourier変換の方はこの極限で であるから,畳み込みの式は
に帰着される.
この式はFourier逆変換が を与えることを直接示している.
以上の証明ではいくつかの省略をしていることに注意せよ.
積分の交換や積分と極限の交換の詳細については本稿の範疇を超えているのでLebesgue積分に関する他書を参照されたい.
さらにここでは絶対可積分な函数 についてFourier変換を議論したが,任意の自乗可積分な函数 に拡張することもできる.
これについてもやはりLebesgue積分に関する他書を参照されたい.