Coulombポテンシャルの散乱振幅

散乱ポテンシャルとして馴染み深いCoulombポテンシャル V(r)=-\alpha/r  の場合を考えてみよう.
散乱状態 E>0  を考える.
三次元のSchrödinger方程式

ただし \epsilon=2mE/\hbar^2>0
この方程式は r\to\infty  での散乱の漸近条件

を満たすことはできない.
Coulombポテンシャルは 1/r  に比例しており, r\to\infty  でもこの影響が無視できず自由粒子とみなすことができないためである.
Coulombポテンシャルでは z\to-\infty  に対して

という漸近条件を採用することにしよう.
そして 1/r  に比例する項はあとから決め,その係数を外向き球面波と散乱振幅の積と解釈することにする.

漸近条件より入射波という特定の方向(あらわな z  依存性)を持つので,球対称な球面極座標より軸対称な別の座標系の方が便利である.
そこで次で定義される円筒放物線座標 (\xi,\,\eta,\,\varphi)  を導入する:

円筒放物線座標

逆変換は

で与えられる.
0\leq\xi,\,\eta<\infty  であり, 0\leq\varphi<2\pi  の範囲を動く.
球面極座標 (r,\,\theta,\,\varphi)  とは方位角座標 \varphi  が共通で

の関係にある.
よって放物線座標におけるLaplacianは

である(問題参照).
Schrödinger方程式を円筒放物線座標で書き換えれば

となる.
\varphi  については二階微分の項が1つだけなのですぐに変数分離できる.
解の形を \psi(\boldsymbol{x})=F(\xi,\eta)G(\varphi)  と仮定して方程式へ代入すると

左辺は \xi,\,\eta  のみであり,右辺は \varphi  のみであるから共に定数 p  とおける.
微分方程式 G''=-pG  を解けば G(\varphi)=Ce^{i\sqrt{p}\varphi}  はすぐにわかる.
波動函数の一価性から \varphi=0  \varphi=2\pi  で連続でなければならない.
そのためには \sqrt{p}=\nu\in\mathbb{Z}  ,すなわち p=\nu^2  である必要がある.

\xi,\,\eta  に関する方程式は

さらに変数分離を行うために F(\xi,\eta)=X(\xi)Y(\eta)  と仮定して代入すると

ここで \mu_{\xi},\,\mu_{\eta}

を満たす定数.
微分方程式の左辺は \xi  のみで右辺は \eta  のみに依存するので共通の定数でおくことができる.
しかしそれは結局のところ \mu_{\xi},\,\mu_{\eta}  に押し込めることができるので,微分方程式は

に分離される.

次に漸近条件を円筒放物線座標で書き換える.
z\to-\infty  のとき r\to\infty  なので, \eta\to\infty  の一方で \xi  は任意の値をとることができる.
よって漸近条件は \eta\to\infty  に対して

と書き変わる.
この漸近形は任意の \xi  について成り立つので X(\xi)  は常に X\equiv c_Xe^{ip_{\infty}\xi/(2\hbar)}  という形でなければならない( c_X  は適当な定数係数).
これを X  の微分方程式へ代入して \xi  の冪で整理すると

となる.
これが任意の \xi  に対して成り立つためには

が必要である.
エネルギーに対する条件は自由粒子のエネルギーの初期条件が保存することを意味している.
また \nu=0  ということは散乱が \varphi  に依存しないことに関連している.
\mu_{\xi},\,\mu_{\eta}  に対する条件より Y(\eta)  に関する方程式は

ここで新たに

とおいた.
\gamma  はCoulomb散乱の強さを特徴づけるパラメータである.
さらに Y(\eta)=e^{-ip_{\infty}\eta/(2\hbar)}\widetilde{Y}(\eta)  とおく.
漸近条件は \eta\to\infty  に対し \widetilde{Y}(\eta)=\mathcal{O}(\eta^0)  となる.
微分方程式へ代入して整理すれば

最後に変数変換 \zeta=ip_{\infty}\eta/\hbar  を施すと

\widetilde{Y}(\zeta)  の満たす微分方程式となる.
これを解けば波動函数は \psi(\boldsymbol{x})=\mathcal{N}^{-1}e^{ip_{\infty}z/\hbar}\widetilde{Y}(\zeta)  として求まる.
\mathcal{N}  は規格化定数.
ところでこの微分方程式は合流型超幾何微分方程式 (confluent hypergeometric function) ,

a=i\gamma  かつ c=1  の場合に対応する.
合流型超幾何微分方程式の解はパラメータを明示して

の3つ存在する.
ただし \mathcal{F}(a,c;x)  Kummerの合流型超幾何函数であり,

Kummer函数

と与えられる.
a  は任意の複素数だが c  は非正整数 0,-1,-2,\cdots  以外とする.
ここで (a)_N  Pochhammer記号であり,

Pochhammer記号

と定義される.
名称が長いので以下では誤解を恐れず \mathcal{F}(a,c;x)  をKummer函数と呼称する.

今の場合 c=1  なのではじめの2つの解は一致する.
さらに \Psi(a,1;x)  \Gamma(0)  を含み正則ではないので解からは外れる.
したがってCoulomb散乱の場合にはKummer函数を用いて

と表せる.

解が求まったので \zeta\to\infty  での漸近形を調べよう.
Kummer函数の漸近展開の一般形は |x|\to\infty  において

で与えられる.
a=i\gamma,\,c=1  ,そして \zeta=ik_{\infty}\eta,\,(k_{\infty}:=p_{\infty}/\hbar)  では

となる.
複雑な式だが \eta  について見てみると第1項に対して第2項は余分に 1/\eta  の因子がかかっていることに注目する.
それゆえ \eta  の大きい漸近展開で 1/\eta  までとることにすると,第1項では n=0,1  を残し,第2項では n=0  まで残せば良い.
\mathcal{O}(1/\eta^2)  の項は無視して

が得られる.
ここから波動函数 \psi(\boldsymbol{x})=X(\xi)Y(\eta)=e^{ik_{\infty}(\xi-\eta)/2}\widetilde{Y}(\eta)  の漸近形を求める.
\widetilde{Y}(\eta)=\mathcal{N}^{-1}\mathcal{F}(i\gamma,1;ik_{\infty}\eta)  を代入すれば

ただし波動函数全体の規格化因子をあらためて

とおいた.
波動函数を z  軸方向に進む平面波と外向き球面波の和の形で書き表していくと

ただし

とおいた.
いろいろな補正項がくっついているが大まかに言って,波動函数の第1項は平面波 e^{ik_{\infty}z}  に比例し,第2項は外向き球面波 e^{ik_{\infty}r}/r  に比例する.
したがって f(\theta)  をCoulomb散乱における散乱振幅として解釈できる.

最後に微分散乱断面積を計算しておく.
微分散乱断面積は散乱振幅から \mathrm{d}\sigma/\mathrm{d}\Omega=|f(\theta)|^2  によって与えることができる.
複素共役によって位相因子とガンマ函数はキャンセルしてしまうので

となる.
粒子の速度を v_{\infty}=p_{\infty}/m  とすればこの結果は古典力学におけるRutherford散乱断面積と一致する.
特に電荷 q,\,Q  をもつ2つの荷電粒子の衝突の場合は \alpha=-Qq/(4\pi\varepsilon_0)  であるから

Rutherford散乱断面積

となる(質量 m  は2つの荷電粒子の換算質量に置き換える).

\textsc{Problem1. }

球面極座標 (r,\theta,\varphi) のLaplacianから円筒放物線座標 (\xi,\eta,\varphi) のLaplacianを計算せよ.

\textsc{Solution. }

球面極座標から円筒放物線座標への変換式から微分演算子について

さらに球面極座標のLaplacianに現れる二階微分については

よって,

角括弧の中の第1項と第5項に着目すると

と変形できる.
これは第3項と同じ微分演算子でまとめることができる.
残りの第2項と第6項,そして第4項も同様に変形して

が得られる.

\textsc{Problem2. }

積分表示: Kummerの合流型超幾何函数 \mathcal{F}(a,c;x) が次のように書けることを示せ:

ただし \mathrm{Re}\,c > \mathrm{Re}\,a>0 とする.

\textsc{Solution. }

まずKummer函数をガンマ函数で書き換えていくと

ここで B(x,y)  はベータ函数.
ただしベータ函数が定義できるためには \mathrm{Re}\,(a+n)>0  かつ \mathrm{Re}\,(c-a)>0  が必要であるが,これらは仮定により満たされている.
ベータ函数の定義より

と積分表示できる.

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