剛体の解析力学

剛体の運動は並進と回転の6つの自由度で記述できる.それらは運動方程式,

剛体の運動方程式

を満たす.ここで \boldsymbol{r}_G  は慣性基準から見た剛体の重心座標, M  は剛体の質量, \boldsymbol{F}  は剛体に働く合力. I  は慣性モーメントテンソル I_{ij}  を並べた行列, \boldsymbol{\omega}  は剛体の角速度ベクトル, \boldsymbol{N}  は剛体に働く力のモーメントの和である.

剛体の解析力学を議論するために,剛体の運動方程式を導くようなLagrangianを構成しよう.

剛体の自由度は6つある.そのうち3つは並進運動に関するもので重心の座標 \boldsymbol{r}_G  が対応する.もう3つは剛体の回転運動に関するもので普通はEuler角 \psi,\,\theta,\,\phi  を対応させる.それゆえ剛体のLagrangianの基本変数は \boldsymbol{r}_G  \psi,\,\theta,\,\phi  ,さらにこれらの時間微分となる.

剛体の運動エネルギーは,

で与えられる.第1項が重心の並進エネルギー,第2項が重心回りの回転エネルギーを表している.

剛体は質点の集まりなのでLagrangianは,質点との類推から,

で与えられると考えられる.ここで V  は剛体内の各質点が感じるポテンシャルエネルギーの総和である:

ここから剛体の運動方程式が導かれることを示したいが,そのために少し復習と準備が必要となる.

剛体の回転エネルギーは角速度 \omega_i  で書かれているが

角速度ベクトルとEuler角の関係式

を用いてEuler角で書き直せる.
ただし \boldsymbol{e}_{\xi},\,\boldsymbol{e}_{\eta},\,\boldsymbol{e}_{\zeta}  は剛体に固定された座標系の基本ベクトル.
この座標系,慣性主軸においては慣性モーメントテンソルが対角化され I_{ij} = \mathrm{diag}\,(I_{\xi},I_{\eta},I_{\zeta})
よって回転の運動エネルギーは

剛体内の任意の点 \boldsymbol{r}  について, \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}_G+\boldsymbol{r}'  と分解する.
\boldsymbol{r}'  は回転運動を記述し固定座標系では \boldsymbol{r}'=\xi\boldsymbol{e}_{\xi}+\eta\boldsymbol{e}_{\eta}+\zeta\boldsymbol{e}_{\zeta}=\sum_{\alpha}x_{\alpha}'\boldsymbol{e}_{\alpha}  と展開される.
時間 \delta t  の間に剛体は \delta\theta = \dot{\theta}\delta t,\,\delta\phi = \dot{\phi}\delta t,\,\delta\psi = \dot{\psi}\delta t,  だけ微小回転する.
このとき微小変位 \delta \boldsymbol{r}'  \boldsymbol{\omega}\delta t\times\boldsymbol{r}'  に等しい.

それゆえ \boldsymbol{\omega}  の成分をEuler角で表せば,

と書ける.この関係式から

が得られる.

準備が整ったのでEuler–Lagrange方程式を調べていこう.

剛体の基本変数の変分は \delta\boldsymbol{r}_G  \delta\theta,\,\delta\phi,\,\delta\psi  である.
これにより剛体内の質点の軌道は \boldsymbol{r}\mapsto \boldsymbol{r} + \delta\boldsymbol{r}_G + \delta\boldsymbol{r}'  とずらされる.
これに伴いポテンシャルは \mathscr{V}(\boldsymbol{r})\mapsto \mathscr{V}( \boldsymbol{r} + \delta\boldsymbol{r}_G + \delta\boldsymbol{r}')  と変化する.

よってポテンシャルの変化分は

第1項は重心に働く力の合力である.
第2項の変分 \delta\boldsymbol{r}'  はEuler角で書けることから鎖法則を用いて,

とする.
第2項の積分の中に上で計算した結果を適用して整理すると

となる.ここで

力のモーメント

は剛体の固定座標から見た力のモーメント(トルク)の成分である.

運動エネルギーの変分も合わせると重心座標に関するEuler–Lagrange方程式はNewton方程式

が導かれる.

次にEuler角については煩雑だが初等的な計算の結果,

が得られる.
これらをうまく整理する必要があるがそれは方針を述べるに留める.
まず3つ目の方程式を用いて2つ目の方程式から N_{\zeta}  を消去する.
そして2つ目の方程式と1つ目の方程式を連立して N_{\xi}  だけの式と N_{\eta}  だけの式に書き換える.

そうして剛体のEuler方程式

剛体のEuler方程式

が得られる.
固定座標の基本ベクトル \boldsymbol{e}_{\xi},\,\boldsymbol{e}_{\eta},\,\boldsymbol{e}_{\zeta}  を使ってベクトル表記すると

が導かれる.

簡単な例として下端が固定された対称コマI_{\xi}=I_{\eta}\neq I_{\zeta}  )がポテンシャル V(\theta)=Mgb\cos\theta  中で運動する場合を考えよう.
ただし b  は固定点と重心の距離

z  軸下向きに一様重力場 -Mgz  があるとき,固定点を原点とする慣性主軸からは重心に Mgb\cos\theta  (重心の高さが b\cos\theta  )が働いているように見える).

ポテンシャルが重心座標によらないので,Euler角だけのLagrangianを独立に議論しても良い.
よって回転運動のLagrangianは,

と与えられる.
ただし I=I_{\xi}+Mb^2,\,I'=I_{\zeta}  Steinerの定理より).

Lagrangianが時間に陽に依存しないのでエネルギーが保存する.
Noetherの定理から計算すると,

が保存エネルギーである.

さらに \phi  \psi  循環座標であることから対応する運動量は保存量である.よって,

はそれぞれ保存量である.

一方で角運動量の \zeta  成分が M_{\zeta}=I'\omega_{\zeta}=I'(\dot{\psi}+\dot{\phi}\cos\theta)  であり p_{\psi}  と等しいことがわかる.

また角運動量の z  成分は

であるが角速度をEuler角で表せば, M_z=I\dot{\phi}\sin^2\theta+I'(\dot{\psi}+\dot{\phi}\cos\theta)\cos\theta
つまり p_{\phi}  と等しいことがわかる.

保存運動量の式を \dot{\phi}  \dot{\psi}  について解くことができて,それらをエネルギーの式へ代入すれば \theta  だけの微分方程式を得ることができる:

ここで

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