Grassmann変数の解析力学*

通常の数はたとえば xy=yx  を満たす.
すなわち数 x  y  は交換しても良い.
Grassmann数とよばれる数は交換すると符号が反転する.
\psi  \chi  をGrassmann数とすると,

が成り立つ.
反交換子 \{A,\,B\}=AB+BA  を用いれば,

とかける.
\psi=\chi  のときには \psi^2=0  となりGrassmann数は1次の冪までしか許されない.
Grassmann数と区別するために普通の数のことを可換数と呼ぶことにする.

f(\psi)  をGrassmann数 \psi  を変数にもつ函数としよう.
f  の値自体は可換数としよう.
このとき函数 f(\psi)  は一般に,

とかける.
ただし a  は可換数, b  はGrassmann数の定数である.
b  \psi  の順番に注意せよ.
Grassmann数の場合 \psi^2=0  なので2次以上の項が全て落ちる.
言い換えればGrassmann変数の函数のTaylor展開は常に上の形である.
たとえば指数函数は,

と定義される.

可換数値の2変数函数では2次の項までが許される:

ただし a,c  は可換数, b_1,\,b_2  はGrassmann数である.
ここから多変数函数への拡張も容易であろう.

ここまでGrassmann数は暗に実としている.
すなわち複素共役をとると \psi^*=\psi
2変数の積の複素共役については

と定義する.
すると2つの実のGrassmann変数 \psi_1,\,\psi_2  に対しては

となり,積 \psi_1\psi_2  は純虚な可換数である.

微分は可換数と同様にTaylor展開の1次の係数で定義する.
しかしTaylor展開の式に見るように符号の任意性がある.
そこで \psi  による左微分

で定義する.
そして右微分を,

と定義する.
この規則は微分をGrassmann数のように思うとわかりやすい.
微分が係数 b  を飛び越えて \psi  に作用するときに -1  が余計にかかるのである.
以下では基本的に左微分を用いる.

ある粒子の軌道がGrassmann変数 \psi(t)  で記述されているとしLagrangianL=L(\psi,\,\dot{\psi})  とする.
Lagrangianは実の可換数としよう.
1変数の場合,Lagrangianは2次以上の項を持つことができない.
たとえば \psi\dot{\psi}  の項をつくってもこれは \psi^2=0  の時間微分だから常に 0  である.
1次の項しかないLagrangianは停留点を持たず意味を持たない.

次に2変数の場合 \psi=(\psi_1,\psi_2)  を考える.
このときは2次の項を作れる.
まずは微分のない項として i\psi_1\psi_2  がある.
Lagrangianは実数だから i  をかけて実数にしておく.
あとのことを考えて反対称化して

としておく.
ここで \epsilon_{ab}  は2次元のLevi-Civita記号で,同じ添字が現れたときは和をとっているものとする.

微分が2つある項 i\dot{\psi}_1\dot{\psi}_2  についてはHesse行列が

でありその固有値が \pm1  なので極小値をもたず物理学的に不適切であることがわかる.
微分が1つの項については i\psi_1\dot{\psi}_2  i\dot{\psi}_1\psi_2  は許される.
ただしこの2つは部分積分で境界項をおとせば互いに移り合う.
そこで実対称行列

を用いて

とおく.
以上から2変数の場合のLagrangianは

ここで m>0  は定数.

\psi_a  正準共役運動量は右微分によって,

で定義する.
L  が可換数なので運動量 \pi_a  はGrassmann数である.
Legendre変換によってHamiltonianは,

で定義される.

2変数のLagrangianの場合にそれぞれ計算すると

となる.
可換数の場合と同様にHamiltonianは運動量の二次形式なっている.

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