撃力

Prerequisite

質点に瞬間的に外力を加えて運動を変えることを考える.
野球やサッカーなどで見られるようにボールにこのような力を加えると劇的に軌道が変化する.
その変化後の軌道は瞬間的な外力,撃力 (impulse) に依存している.

撃力は次のような時間の函数として与えられる:

つまりごく短い時間 \Delta t  の間だけ力 \boldsymbol{F}  が質点に働く.

まずは簡単のため t=0  で静止している質点を考えよう.
運動方程式は,

である.
ここで \boldsymbol{v}(t)  は質点の速度で初期条件 \boldsymbol{v}(t=0)=\boldsymbol{0}  を満たす.
両辺を時刻 t=0  から t=\Delta t  まで積分すると,

したがって,

がわかる.
撃力によって速度は大きさ |\boldsymbol{F}|\Delta t/m  まで加速し,そのあとは撃力に関係なく自由に運動する.
この式からわかるように速度の大きさを変えるには撃力を大きくするか,撃力が加わる時間 \Delta t  を長くするかすれば良い.
速度の初期条件が \boldsymbol{v}(0)=\boldsymbol{v}_0  のときは,

となる.

撃力以外に外力 \boldsymbol{F}_{\mathrm{ex}}(t)  があったとする. 外力 \boldsymbol{F}_{\mathrm{ex}}  は撃力に比べ小さいが常に働くとする(たとえば重力空気抵抗など).
すると撃力がはたらく時間 \Delta t  の間での力積の寄与は小さくそれほど質点の運動を変えないと仮定できる.
一様重力場 \boldsymbol{F}_{\mathrm{ex}}=-m\boldsymbol{g}  のもとで初速 \boldsymbol{v}_0  の質点に撃力を加えるとその間は上式が成り立つ.
時刻 t=\Delta t  のあとは初速 \boldsymbol{v}(\Delta t)  の一様重力場下の放物線運動をする.
たとえば野球の投球と打球はこのような関係にあり,投手の球速が \boldsymbol{v}_0  であり打撃が撃力 \boldsymbol{F}  に対応する.

壁との衝突

壁に質点をぶつけたとき壁は微動だにせず質点を跳ね返す.
衝突の間,質点は壁から撃力を受けるのである.壁が x=0  の位置にある yz  平面だとしよう.
はじめの速度を \boldsymbol{v}  として x  軸の負の側から壁に向かっているとし,壁と衝突した後の速度を \boldsymbol{v}'  とおく.
質点の質量を m  とすると運動量保存則より,

が成り立つ.
ここで \boldsymbol{F}  は壁から受ける撃力.
壁からの撃力を詳しく調べよう.

衝突の瞬間,質点と壁は接触しており互いに作用・反作用を及ぼしあっている.
壁と垂直な方向に注目すると,質点が壁の向こう側へ抜けることはできないのは,
壁が垂直抗力 \boldsymbol{N}  をはたらかせて質点を止めるからである.
このとき垂直方向の運動エネルギーは mv^2_x/2  から 0  まで減少する.
垂直方向のエネルギー保存則からこの分のエネルギーが壁と質点に再分配されなければならない.
壁は速度を持たないとして壁と質点の間の反発係数

反発係数

で定義する.
すると v_x'=-ev_x  で与えられる.
あとの垂直方向の運動エネルギーは me^2v_x^2/2  であり 0\leq e\leq 1  のことから必ずはじめより非増加である.
減少した分のエネルギー m(1-e^2)v^2_x/2  は音や熱のエネルギーとして散逸したと考えられる.
e=1  の場合,壁への散逸はなく質点の運動エネルギーはそっくりそのまま返され,はじめと真反対の速度をもつ.

次に水平方向に注目すると,壁と質点の間に摩擦力がはたらく.
摩擦力が水平方向の速度 v_{h}=\sqrt{v_y^2+v_z^2}  を減速させる.
摩擦力の働く時間は垂直抗力が働いている間だけなので必ずしも運動を止めない.
衝突時間を \Delta t  とし動摩擦係数を \mu'  とすると運動量と力積の関係から,

が成り立つ.
もし摩擦が存在しなければ水平方向の速度は保存され mv_h=mv'_h  である.
反対に動摩擦力が v_h  0  まで減速した場合,今度は静止摩擦力 \boldsymbol{f}  が働き水平方向の運動エネルギーはなくなる.
ゆえに衝突後は壁と垂直に跳ね返ることが予想される.
しかしよほど摩擦係数が大きくない限りは衝突時間が非常に短いのでこの影響は無視できる.

Problems

\textsc{Problem1.}

バスケットボールをドリブルするために必要な垂直方向の手の力の大きさを求めよ.
ただしボールは質量 m の質点として扱い,床とボールの反発係数を e ,手までの高さを h ,力を加える時間を \Delta t とする.

\textsc{Solution.}

ボールの水平方向の運動は無視して,鉛直上向き,床を高さ 0  とする z  軸でボールの運動を観測する.
まずドリブルを4つの瞬間に分けよう;(i)手を離れる瞬間,(ii)床に衝突する直前,(iii)床に衝突した直後,(iv)手まで戻る直前.
(i)でのボールの速度を v_0  ,(ii)での速度を v  とすると力的エネルギー保存則より

これを解けば

ボールは下向きに運動しているので負号に注意せよ.
次に(iii)での速度を v_2  とすると反発係数の定義より

と求まる.
(iv)での速度を v  とすれば再びエネルギー保存則により

が成立する.これを解けば

v_0<0  かつ v  が実数であるためには

でなければならない.
よってこれを満たす v_0  となるような力を手からボールに加えればドリブルを続けることができる.
速度 v  から v_0  に変える撃力の式

を解けば

初速の条件を適用すれば力の大きさに対して

\textsc{Problem2. }

多段式垂直衝突球: 2つの重さの異なるボールを重い方を下にして積み重ねて同時に高さを h  の位置から自由落下させる.

(I) 床に完全弾性衝突して跳ね返るとき上に積まれた軽いボールの最高到達点の高さを求めよ.
(II) 質量比の極限 m_1/m_2\to0  での最高到達点を求めよ.
(III) 質量 m_1<m_2<\cdots<m_N  のボールが N  個あって,それらを重いものから順に積み重ねたときでの最高到達点を同様に調べよ.

ただしボールは質点とみなし,ボールどうしも完全弾性衝突するとする.

\textsc{Solution.}

(I) 床に原点をとる.
はじめ自由落下しているので,床に衝突する直前の速度を v_i\,(i=1,2)  とすると2つのボールはエネルギー保存則により

が成立する.
これより v_i=-\sqrt{2gh}=:-v  であり2つのボールはほぼ同時に床まで到達する.

先に床に衝突するのは下にある重い m_2  のボールである.
運動量保存則により衝突直後の重いボールの速度は反転し,鉛直上向きに v=\sqrt{2gh}  を持っている.
したがってこの重いボールは上に積まれた軽いボールと衝突する.
運動量保存則により衝突後の速度をそれぞれ v_1',\,v_2'  とおくと

が成立する.
重いボールが軽いボールを追い越すことはないので v_1'-v_2'>0  に注意して解けば

軽いボールについては 3m_2>m_1  より必ず鉛直上向きに跳ね返り,重いボールは質量の差によって運動の向きが変わる.
軽いボールの最高到達点を h_1  とするとエネルギー保存則により

なので結局

となる.
最後の不等式では m_1+m_2<2m_2  であることを用いた.
つまり軽いボールは元の高さより高い地点にまで跳ね返されることがわかる.

(II) 前問の結果で m_1/m_2\to0  の極限をとるために \alpha=m_1/m_2  で書き換えると

である.
したがって \alpha\to0  とすれば直ちに h_1\to 9h  がわかる.
つまり軽い方のボールは最大で元の高さの 9  倍まで跳ね上がることができる.

(III) N  個積み重ねた場合を考える.
床に衝突する直前ですべてのボールは -v=-\sqrt{gh}  を持っている.
まず一番下の質量 m_N  のボールが床と衝突して v=\sqrt{gh}  を得てすぐ上の質量 m_{N-1}  のボールと衝突する.
ここでの計算は2つの場合と全く同様で

次に N-1  番目のボールは N-2  番目のボールと衝突する.
衝突後の速度を v_{N-1}'',\,v_{N-2}'  とおくと

が成立する.
これを解くと

となる.
この計算は残りの任意の i  番目と i-1  番目のボールどうしにも適用できる.
つまりはじめ i  番目は上向きに速度 v_i'  を持っていて,下向きに速度 -v  をもつ i-1  番目のボールと衝突してそれぞれ v_i'',\,v_{i-1}'  になったとすると

と計算される.
これを繰り返して最後に最も軽いボールに衝突して跳ね上がっていく.
ここで重要なのは左の漸化式である.
漸化式を解くために質量比 \alpha_i=m_{i-1}/m_i  を導入して

と変形する.
これを繰り返し用いて

が得られる.
よって最も軽いボールの最高到達点は

と求まる.

質量比 \alpha=m_1/m_N\to0  の極限を考えたい.
そこで相加相乗平均の関係式より

が成り立つことに注目する.
二式の左辺の和は 1  に等しく,さらに \prod_{i=2}^N\alpha_i=m_1/m_N=\alpha  であるから

が成立する.
等号成立条件はすべての質量比が等しい \alpha_2=\alpha_3=\cdots=\alpha_N  のときである.
これから最高到達点は

となる.
結局 \alpha\to0  の極限では h_1\to(2^N-1)h  となる.

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