離散的変換の表現論

Prerequisite

この節では量子論における離散的な変換に対する対称性を議論する.
連続的な対称性はNoetherの定理と連続が群の表現論によって整合性が取れていることを見た.
離散的な対称性としてここではパリティ対称性時間反転対称性を議論する.

[パリティ対称性]

パリティ変換は空間座標の1つの符号を反転する変換である:

\mathcal{P}_x  x  軸を反転させるパリティ変換.
パリティ変換は鏡映変換とも呼ばれこれはちょうど yz  平面に鏡を置いて反転させたと解釈できる.
鏡の向きは任意であるから回転させて反転させてもパリティ変換となる.
つまり任意の O\in\mathrm{SO}(3)  をとって

もパリティ変換である.
重要な性質として \mathrm{det}\,O=+1  より \mathrm{det}\,(\mathcal{P}_xO)=-1  である.
さらに \mathcal{P}_x^2=I_3  \mathcal{P}_x^{\mathrm{T}}=\mathcal{P}_x  なので転置行列について

となる.
つまりパリティ変換は直交行列だが回転行列(特殊直交行列)ではない.
O  をうまくとって

とできる.
つまり三次元では3つの軸をいっせいに反転する変換 \boldsymbol{x}\mapsto-\boldsymbol{x}  はパリティ変換である

註)二次元では2つの軸の反転変換は 180^{\circ}  の回転となってパリティ変換ではない

以下ではこの \mathcal{P}  を使って量子論への表現を議論していく.

パリティ変換 \mathcal{P}  に対応したユニタリ変換\hat{\mathcal{P}}  として

を満たすとする.

任意の直交行列 O\in\mathrm{O}(3)  に対して

を仮定しておけば任意の回転行列とパリティ変換の積も準同型性を保つことになる.
すなわち任意のパリティ変換 \mathcal{P}O  に対して

とできる.

座標のオブザーバブルとの交換子 [\hat{x}_i,\hat{\mathcal{P}}]  についてみていく.
任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に作用させるとパリティ変換の定義より

よって \hat{\mathcal{P}}^{-1}=\hat{\mathcal{P}}  なので

がわかる.
オブザーバブルも同様にパリティ変換される.
運動量演算子についても同様で

が成り立つ.

次に角運動量のパリティ変換について見てみよう.
古典論では定義 \boldsymbol{L}=\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p}  なのでパリティ変換で不変である.
このようなベクトル量は擬ベクトル(または軸性ベクトル)とよばれる.
オブザーバブルの変換則を求めるには準同型性を利用して

であることを用いる.
回転行列 O  が微小変換のとき O=I_3+\delta\theta  \hat{U}(O)=\hat{I}+(1/2)\sum_{ij}\delta\theta_{ij}\hat{T}_{ij}  と表せることから

ただし \delta\theta  は微小な反対称行列で \hat{T}_{ij}  も添字の入れ替えに関して反対称である.
直接の計算によって \mathcal{P}\delta\theta\mathcal{P}=\delta\theta  がわかる.
よって

となり \hat{T}_{ij}=i\hat{L}_{ij}/\hbar  はパリティ変換でたしかに不変になっている.

Hamiltonianがこのパリティ変換 \mathcal{P}  のもとで不変なときパリティ対称性を持つという:

[時間反転対称性]

時間反転変換は時間の符号を反転させる変換である:

座標は不変だがその時間微分を含む速度や運動量,角運動量は符号が反転する.
パリティ変換と同様に \mathcal{T}  が古典論における時間反転変換とすると

などが成立する.
時間反転は2回続けて行うと元に戻るので \mathcal{T}^2=I  である.
I  は恒等変換で \mathcal{T}  は自分自身が逆元といえる.
時間反転変換は2つの要素からなる群である.

時間反転変換に対応するユニタリ変換を \hat{\mathcal{T}}  とおいて

を仮定する.
これから直ちに \hat{\mathcal{T}}^{-1} = \hat{\mathcal{T}}  がわかる.

任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に作用させても不変

とする.
これは \hat{\mathcal{T}}  の固有ベクトルが |{\boldsymbol{x}\rangle}  であり,固有値が 1  であることを意味している.
したがって交換子 [\hat{x}_i,\hat{\mathcal{T}}]=0  であり

が導かれる.

他方で運動量 \hat{p}_i  に対しては困難が生じる.
交換子 [\hat{p}_i,\hat{\mathcal{T}}]  を調べると

となって運動量演算子は座標と同じく時間反転変換で不変となってしまう.
これは古典論と矛盾している.

解決策としては \hat{\mathcal{T}}  反ユニタリ演算子に選ぶことである.
反ユニタリとは虚数単位 i  と反可換な演算子のことで

を満たすもののことである.
よって任意の複素数 c\in\mathbb{C}  とは

という交換規則となる.

この反ユニタリ性によって運動量演算子からくる i  \hat{\mathcal{T}}  を交換するとき符号が入れ替わって

よって正しく古典論と整合する結果

が得られた.

Hamiltonianが時間反転変換 \mathcal{T}  のもとで不変なとき時間反転対称性を持つという:

Schrödinger方程式 i\hbar(\partial/\partial t)|{\psi}\rangle=\hat{H}|{\psi}\rangle  の左から時間反転変換を作用させる.
右辺はHamiltonianと可換であることから

一方で左辺の方は虚数単位と交換するときに符号が反転して

となる.
よって時間反転した状態ベクトル |{\psi,-t}\rangle={\mathcal{T}}|{\psi,t}\rangle  も同じSchrödinger方程式を満たす.

コメントを残す