空間回転変換の表現論

古典力学において回転変換に対する対称性は角運動量保存則に対応していた.
量子論における回転変換を議論しよう.
こちらも並進変換と同様の過程をたどっていくことにする.
回転変換は古典論の空間 \mathbb{R}^3  では \mathrm{SO}(3)  という線型群の元によって表されていた.
\mathrm{SO}(3)  の元は直交行列 O^\mathrm{T}O=I_3  でかつ \mathrm{det}\,O=+1  を満たすような行列全体の集合である:

そして3つの 3\times3  行列の生成子 S_i  によって任意の元が書けた.
すなわち,

とかける.
そしてこの生成子は交換関係 [S_i,\,S_j]=\epsilon_{ijk}S_k  を満たすのであった.
この O  に対応したユニタリ変換\hat{U}(O)  として

を満たすとしよう.
そして同様に以下を仮定する:

この性質によって続けて回転する変換もうまく表現される.

座標のオブザーバブルとの交換子 [\hat{x}_i,\,\hat{U}]  について見ていく.
任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に交換子を作用させると \hat{U}  の定義より,

すなわち,任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に対して

が成り立つ.
ここで \delta x_i=\sum_j(O_{ij}-\delta_{ij})x_j  とおいた.
x_j  \hat{x}_j|{\boldsymbol{x}\rangle}  の固有値だから演算子に置き換えて \delta \hat{x}_i=\sum_j(O_{ij}-\delta_{ij})\hat{x}_j  とする.
左から \hat{U}^{-1}(O)  をかければ,

が成立する.
つまり座標のオブザーバブルはユニタリ変換 \hat{U}(O)  によってたしかに空間回転されている.

微小回転 O=I_3+\delta\theta  を考えよう.
\delta\theta  は微小な要素をもつ反対称行列で独立な 3  成分を持つ.

註)O  が直交行列で O^{-1}=O^t  を満たすことから,逆の微小変換 I_3-\delta\theta  とすると, I_3-\delta\theta=I_3+\delta\theta^{\mathrm{T}}  より,

を満たさなければならない.

これでTaylor展開すれば

とおける.
ここで \hat{T}_{ij}  は反対称な演算子である.
左辺の 1/2  は後の都合で入れたものである.

座標のオブザーバブルの微小回転変換の左辺は

であり他方で右辺において同じ精度で O_{ij}=\delta_{ij}+\delta\theta_{ij}  なので

となる.
\delta\theta_{jk}  は任意の反対称行列だから右辺を j,\,k  について反対称化して

が得られる.
あるいは反対称性より独立な成分は3つだけなので \hat{T}_{jk}=\sum_{l}\epsilon_{jkl}\hat{T}_l  とおいて,右辺のKroneckerのデルタはLevi-Civita記号の積でかけることに気付けば

を得る.
\hat{T}_i  として角運動量演算子 i\hat{L}_i/\hbar  に選べば( -1  を除いて)同じ交換関係を満たすことがわかる.

運動量演算子についても同様にして任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に対して

が導ける(問題1参照).
運動量も3次元のベクトルとして回転する.
またこれは \hat{x}  と同じ関係なので,微小変換の式を代入すれば交換関係

が得られる.

準同型性から \hat{U}(O^{-1})\hat{U}(O')\hat{U}(O)=\hat{U}(O^{-1}O'O)  が成り立つ.
微小変換の式 O'=I_3+\delta\theta'  を代入して \delta\theta  の一次まで見れば右辺は,

と展開できる.
よって任意の微小な反対称行列 \delta\theta'  について

が導かれる.
この式の右辺は \hat{T}_{ij}  が3次元の2階テンソルのように回転変換することを表している.
さらに O  も微小変換 O=I_3+\delta\theta  とおいて代入すると,

\delta\theta  の反対称性から右辺の i  j  の入れ替えに関して対称な成分はおちる.
そのため \delta\theta  で比較するときには右辺の括弧の中を反対称化しておく必要がある.
こうして回転変換の生成子の交換関係,

が得られた.
独立な3成分の関係に書き換えるために再び \hat{T}_{jk}=\sum_{n}\epsilon_{jkn}\hat{T}_n  とおいて両辺を \epsilon_{jkm}  と縮約を取れば \sum_{j,k}\epsilon_{jkm}\epsilon_{jkn}=2\delta_{mn}  により

と逆に解ける.
よってこれを交換関係へ代入にして

右辺の交換関係を代入して添字を慎重に整理すれば,

ここに \hat{T}_{kn}=\sum_{a}\epsilon_{kna}\hat{T}_a  を代入してさらに計算を進めれば

が得られる.
これは S_i  たちの満たす交換関係と( -1  を除いて)同じ構造をもっている.
さらにいえばこれは量子力学における角運動量演算子が満たすべき交換関係でもある.
\hat{T}_i=i\hat{L}_i/\hbar  とおけば角運動量演算子の交換関係

を得る.
こうして量子論においても回転変換と角運動量が結びつくということがわかった.

角運動量がHamiltonianと可換 [\hat{L}_i,\,\hat{H}]=0  ならばHeisenberg方程式より角運動量演算子の時間微分は 0  となる.
空間回転は角運動量演算子によって生成されるからHamiltonianの空間対称性はすなわち角運動量保存則を意味する.

角運動量の各成分は可換ではないから同時固有状態は存在しない.
角運動量が保存するというのは量子論的にはその期待値であって実際の測定値が保存するわけではないことに注意せよ.

Problems

\textsc{Problem1.}

運動量の回転変換の式を示せ.

\textsc{Solution.}

任意の |{\boldsymbol{x}\rangle}  に対して

ただし \boldsymbol{x}'=O\boldsymbol{x}  とおいた.
微分の鎖法則によって

加えて直交行列の性質から O^{-1}_{ji}=O^{\mathrm{T}}_{ji}=O_{ij}  であることから

よって

となり,左から \hat{U}^{-1}(O)  をかければ所期の結果を得る.

\textsc{Problem2.}

波動函数 \psi(\boldsymbol{x})=\langle{\boldsymbol{x}|\psi}\rangle の回転変換を求めよ.

\textsc{Solution.}

任意の状態 |{\psi}\rangle  を回転変換すると

積分変数を O\boldsymbol{x}\mapsto\boldsymbol{x}  と置き換れば

|{\psi'}\rangle=\hat{U}(O)|{\psi}\rangle  とおいて \psi'(\boldsymbol{x})=\langle{\boldsymbol{x}\rangle|\psi'}  とすれば波動函数の変換則

あるいは \boldsymbol{x}'=O\boldsymbol{x}  とおいて

が得られる.

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