相互作用描像

Hamiltonianの摂動項が時間の依存性をもつとここまでの定常状態についての摂動論が適用できない.
非摂動状態についてはSchrödinger描像の固有値方程式の解がすでに与えられているのでこれを利用するのが良い.
一方で演算子の時間発展はHeisenberg描像において扱いやすい.
そこでひとつのアイデアとして摂動項だけをHeisenberg描像にして,もともとのHamiltonianの時間依存性は状態ベクトルにこめたままのSchrödinger描像にするという第3の描像をとることにする.
これを相互作用描像 (interaction picture) またはDirac描像という.

この節では複数種類の時間発展演算子を扱うのでどれをつかっているかに気を付けよ.

一般にHamiltonianが \hat{H}=\hat{H}_0+\hat{H}_1(t)  の形をしているとする.
この節においては \hat{H}_1(t)  は特に摂動項でなくてもよく単に時間依存する付加項として扱う.
Hamiltonianが時間依存しないときのSchrödinger描像における時間発展演算子は \hat{U}_0(t-t_0)=\exp(-i\hat{H}_0(t-t_0)/\hbar)  である.
相互作用描像の状態ベクトルとSchrödinger描像の状態ベクトルは,

の関係で結ばれる.
初期状態 t=t_0  では \hat{U}_0(0)=\hat{I}  なので |{\psi_{\mathrm{I}},t_0\rangle}=|{\psi_{\mathrm{S}},t_0\rangle}  である.
相互作用描像の状態ベクトルの定義は非斉次方程式の定数変化法と等価である.
つまりSchrödinger方程式,

を解くにあたって次のように考える:付加項 \hat{H}_1  がない場合の方程式の一般解はすでにわかっていて |{\psi_{\mathrm{S}},t\rangle}=\hat{U}_0(t-t_0)|{\psi_{\mathrm{S}},t_0\rangle}  であった.
定状態ベクトルに時間依存性をもたせて,付加項がある非斉次方程式の解を |{\psi_{\mathrm{S}},t\rangle}=\hat{U}_0(t-t_0)|{\psi_{\mathrm{I}},t\rangle}  と仮定することができる.
これが相互作用描像の由来である.

Schrödinger描像でのオブザーバブル \hat{O}_{\mathrm{S}}  の期待値は \langle{\psi_{\mathrm{S}},t|\hat{O}_{\mathrm{S}}|\psi_{\mathrm{S}},t\rangle}  であったからこれを不変にするように相互作用描像でのオブザーバブルを定義する.
つまり,

であり,これが \langle{\psi_{\mathrm{I}},t|\hat{O}_I|\psi_{\mathrm{I}},t\rangle}  に等しくなるように,

と定義すれば良い.

相互作用描像における状態ベクトルが満たすべき方程式を導出しよう.
状態ベクトルの時間微分を計算すると,

Schrödinger方程式より i\hbar (\mathrm{d}/\mathrm{d}t)|{\psi_{\mathrm{S}},t\rangle}=\hat{H}|{\psi_{\mathrm{S}},t\rangle}  であるから,

朝永–Schwinger方程式

これが相互作用描像での状態ベクトルの時間発展を決める方程式であり朝永–Schwinger方程式として知られる.

次にオブザーバブルが満たすべき方程式を求めよう.
任意のオブザーバブル \hat{O}_{\mathrm{I}}  をとってきて時間微分を計算すると,

したがってHeisenberg方程式に対応する方程式

を得る.

それでは時間発展の方程式を解いて相互作用描像における時間発展演算子を求めよう.
状態ベクトルの時間発展を次のようにおく:

左辺について,Schrödinger描像に戻しさらにSchrödinger描像の時間発展演算子で初期状態に戻す: |{\psi_{\mathrm{I}},t\rangle}=\hat{U}^{\dagger}_0(t-t_0)\hat{U}(t,t_0)|{\psi_{\mathrm{S}},t_0\rangle}
\hat{U}(t,t_0)  は全Hamiltonian \hat{H}  に対する時間発展演算子.
一方右辺は初期時刻 t_0  ではどちらの描像の状態ベクトルも一致するのでSchrödinger描像の初期状態に替えることができる.
そうして両辺は |{\psi_{\mathrm{S}},t_0\rangle}  にそろうので,次が得られる:

初期条件から U_{\mathrm{I}}(t_0,t_0)=\hat{I}  である.
またこの演算子は U_{\mathrm{I}}^{\dagger}(t,t_0)=\hat{U}^{\dagger}(t,t_0)e^{-i\hat{H}_0(t-t_0)/\hbar}  だからユニタリ演算子である.
よって状態ベクトルのノルムはこの演算子が作用しても保存される.
方程式に時間発展演算子の定義を代入すると \hat{U}(t,t_0)  に関する方程式,

が得られる.
両辺を初期条件 \hat{U}_{\mathrm{I}}(t_0,t_0)=\hat{I}  を加味して t_0  から t  の範囲で積分すると,

右辺にはまだ \hat{U}_{\mathrm{I}}(t,t_0)  が残っている.
ここに上の表式を再度代入すれば,

再び右辺の第3項に \hat{U}_{\mathrm{I}}(t,t_0)  があるから代入できる.
これを再帰的に繰り返せば,

という形に書ける.

k=2  のときの積分範囲

k=2  の項に注目してみよう.

積分変数について必ず t_1\geq t_2  でなければならない.
被積分函数は t_1,t_2  について対称であり,積分変数を入れ替えても積分値はもとのものと同じになる.
ただしこのときは t_1\leq t_2  に変わることに注意しなければならない.
このことから上の積分は,

とかける.
たとえば第1項の積分範囲は t_1t_2  平面上の t_1=t_2  t_1=t_0  t_2=t  で囲まれた直角二等辺三角形である.
そこで t_1\leq t_2  ということを階段函数 \vartheta(t_1-t_2)  をかけて表現すれば t_2  の積分範囲を t_0  から t  に拡張できる.
こうすると階段函数のおかげで t_1  を超えたところで被積分函数は 0  になるので結果は同じになる.
第2項も同様にして,

ここで積分は交換できるが異時刻のHamiltonian \hat{H}_I(t_1)  \hat{H}_I(t_2)  は一般には交換しないことに注意せよ.
そこで表記を簡潔にするために時間順序積

を導入して

とまとめて書き表す.
積分変数の対称性がそれぞれ k!  となる以外は一般の k  でも同じで,

となる.
これは指数演算子の定義に類するものである.

そこで上式を記号的に,

相互作用描像の時間発展演算子

と書くことにする.
以上より相互作用描像における状態ベクトルの時間発展は,

となる.
初期状態はどの描像でも同じなので添字を省略した.
次の節で相互作用描像を駆使して時間依存する場合の摂動論を展開していこう.

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  • 時間に依る摂動論

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