定常散乱のGreen函数

定常な散乱問題は無限遠での漸近形,

のもとで定常Schrödinger方程式

を解いて f(\theta,\varphi)  を求めれば良い.
そのとき微分散乱断面積\mathrm{d}\sigma/\mathrm{d}\Omega=|f|^2  で与えられる.

定常Schrödinger方程式を解くためにGreen函数の方法を導入しよう.
まず微分方程式を

と変形する.
ここで散乱理論では E>0  であり k=\sqrt{\epsilon}=\sqrt{2mE}/\hbar
ポテンシャルがない v(r)=0  のとき,自由粒子の斉次方程式となる.
自由なHamiltonian \hat{H}_0  と運動量は可換になるので同時固有状態 |{\boldsymbol{p}\rangle}  が存在する.
座標表示では平面波

と表され任意の状態 |{\psi}\rangle  は運動量に関する重ね合わせになる(Fourier変換に一致する).
またde Broglieの関係からエネルギー固有値は E=\hbar^2k^2/(2m)=p^2/(2m)  である.

次にポテンシャルが存在する非斉次の場合に

を満たすGreen函数 G(\boldsymbol{x})  を定義する.
Green函数を

とFourier変換して定義に代入すれば

と求まる.
このGreen函数を用いて非斉次方程式の一般解は

で与えられる.
これは実際には解ではなく右辺に \psi(\boldsymbol{x})  が現れる積分方程式である.
この方程式はLippmann–Schwinger方程式と呼ばれる.
第1項は散乱の影響を受けていない入射波が対応し,第2項はポテンシャルに依存し散乱波が対応していると解釈できる.

漸近形を持つためには入射波として e^{ip_{\infty}z/\hbar}  を採用する(これは \widetilde{\psi}_0(\boldsymbol{p})=(2\pi\hbar)^3\delta^{(3)}(\boldsymbol{p}-p_{\infty}\boldsymbol{e}_z)  としたことと同じ).
座標表示のGreen函数 G(\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}')  は容易な積分計算から

と求められる(問題参照).
いまの場合,波数は k=p_{\infty}/\hbar  である.
Lippmann–Schwinger方程式は

となる.
さらに漸近形との対応を見るためにポテンシャルが効かなくなる無限遠方 |\boldsymbol{x}|\gg|\boldsymbol{x}'|  を考えよう.
このとき

と近似できる( r=|\boldsymbol{x}|  ).
\theta  \boldsymbol{x}  \boldsymbol{x}'  がなす角.
1/|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{x}'|\simeq 1/|\boldsymbol{x}|  と近似すれば

と評価できる.
ここで \boldsymbol{k}=p_{\infty}\boldsymbol{e}_r/\hbar=p_{\infty}\boldsymbol{x}/(\hbar|\boldsymbol{x}|)  とおいた.
したがって漸近形と比較して散乱振幅が

によって与えられる.
Lippmann–Schwinger方程式を解いて \psi  が求まれば散乱振幅もただちに計算ができる.

最後にLippmann–Schwinger方程式を座標表示などに頼らずに状態ベクトルのままで導出しておこう.
これは形式的な解であり結局は座標表示を用いて解くことになる.
まず自由なHamiltonian \hat{H}_0  と散乱ポテンシャル \hat{V}  として系のHamiltonianを \hat{H}=\hat{H}_0+\hat{V}  とおく.
定常Schrödinger方程式 (\hat{H}_0 + \hat{V}) |{\psi}\rangle = E|{\psi}\rangle  を少し書き換えて

これは座標表示の方程式 (\triangle+k^2)\psi(\boldsymbol{x})=v(r)\psi(\boldsymbol{x})  に対応させている.
固有値 E=\boldsymbol{p}^2/(2m)=:E_{\boldsymbol{p}}  には固有状態 |{\boldsymbol{p}\rangle}  が属していて (E_{\boldsymbol{p}}-\hat{H}_0)|{\boldsymbol{p}\rangle}=0  を満たす.
左辺にこれを加えて,逆演算子 (E_{\boldsymbol{p}}-\hat{H}_0)^{-1}  を左から作用させれば

これが状態ベクトルで書かれたLippmann–Schwinger方程式である.
左から \langle{\boldsymbol{x}|}  を作用して座標表示すれば

積分の中について \langle{\boldsymbol{x}'|\hat{V}|\psi_{\boldsymbol{p}}\rangle}=V(|\boldsymbol{x}'|)\psi_{\boldsymbol{p}}(\boldsymbol{x})  となる.
行列要素 \mathcal{G}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}')=\langle{\boldsymbol{x}|(E_{\boldsymbol{p}}-\hat{H}_0)^{-1}|\boldsymbol{x}'\rangle}  はGreen函数に一致することがわかる(問題参照).

他方で左から \langle{\boldsymbol{p}|'}  を作用して運動量表示すれば

となる.
右辺第2項の (E_{\boldsymbol{p}} - E_{\boldsymbol{p}'})^{-1}  |\boldsymbol{p}|=|\boldsymbol{p}'|  で発散する.
Green函数の求め方(問題参照)により極を i\epsilon  だけずらすことで回避できる:

+  の場合が外向き球面波に対応し今の漸近形に一致し, -  の場合は内向き球面波に対応する.
i\epsilon  処方はあらかじめLippmann–Schwinger方程式の段階で

として考慮しておいても良い.
運動量表示のLippmann–Schwinger方程式の右辺第1項のデルタ函数は運動量保存を意味している.
これは入射波(と生存波)の寄与に対応する.
第2項では必ずしも運動量は保存しないがエネルギーについては留数定理により E_{\boldsymbol{p}}=E_{\boldsymbol{p}'}\mp i\epsilon  のところだけが効いてくる.
それゆえ第2項でも運動量は保存しなくてもエネルギー保存則が成立しており,定常な散乱波に対応することがわかる.

Problems

\textsc{Problem1. }

次の積分を計算して G(\boldsymbol{x}) を求めよ:

\textsc{Solution. }

球面曲座標に移って

まず \theta  積分については変数変換 \xi=\cos\theta  を実行すると

よって残るは k'  積分となる:

この積分には k'=\pm k  に極を持つ.
そこで微小な虚数 i\epsilon  を加えて極をずらそう.
- k'^2 + k^2=(-k'+k)(k'+k)  と因数分解してそれぞれに i\epsilon  を加えて (-k'+k+i\epsilon)(k'+k+i\epsilon)  とする.
すると極は実軸上から離れて k'=k+i\epsilon  k'=-k-i\epsilon  となる.

被積分函数は無限遠で減衰しJordanの補助定理が適用できる.
上半面で閉じた半円の積分経路を考えれば内部に極は k'=k+i\epsilon  だけなので留数定理から

したがって

となる.
形から明らかなようにこれは外向きの球面波である.
一方で虚数の入れ方を変えて (-k'+k+i\epsilon)(k'+k+i\epsilon)  とした場合は上半面に現れる極が k'=-k+i\epsilon  に変わって積分結果は

になる.こちらは内向きの球面波である.

\textsc{Problem2. }

次の行列要素がLippmann–Schwinger方程式のGreen函数に一致することを示せ:

\textsc{Solution. }

間に運動量の完全系を挟み込んで

E_{\boldsymbol{p}}=\boldsymbol{p}^2/(2m)  なのでこの積分は前問で計算したものと(定数倍を除いて)一致する.

Next

  • 部分波展開

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