経路積分の計算

最も簡単な自由粒子のLagrangian

である.
経路積分量子化によって遷移振幅 c(x,t; x',t_0)

と表される.
経路積分を評価するために測度の定義に戻って

から逐次積分によって求積する.
遷移振幅は

ここで \delta x_k=x_{k+1}-x_k  である.
積分の実行結果は

である(問題参照).

次の経路積分量子化の例として調和振動子

を取り上げよう.
経路積分を評価するために前節で導入した鞍点法を用いる.
調和振動子の古典解を \overline{x}(t)  とし,最小作用の原理

を満たすとする.
また端点において \overline{x}(t_0)=x',\,\overline{x}(t)=x  とする.
そして古典解のまわりで x=\overline{x} + \xi  として作用を展開すると

となる.
ここで S[\xi]  は調和振動子の作用で x  を置き換えたもの.
調和振動子の作用の場合この展開は厳密であり \xi  が小さい近似などは用いていないことに注意せよ.

x  に関する経路積分は変数変換 x=\overline{x}+\xi  によって \xi  に関する経路積分に変更して

となる.
後ろの経路積分は端点の座標 x,\,x'  に依存せず端点における時間 t,\,t_0  だけに依存している.
調和振動子の古典的な一般解

である( s  は作用の積分変数).
境界条件は \overline{x}(t_0)=x'  \overline{x}(t)=x  であることから実定数 c_1,\,c_2  が定まって

古典的な作用の積分を実行してやや長い三角函数の計算の後に

が得られる.
2行目から3行目への計算ではまず和積の公式を使い \sin\omega(t-t_0)  を括り出してから c_1,\,c_2  の式を代入して x,\,x'  の冪ごとに整理すると見通しが良い.

残りの \xi  についての経路積分は一度離散的な表式に戻ってGauss積分を実行すれば

と求められる(問題参照).
以上により遷移振幅は

遷移振幅のもともとの定義は

であった.
エネルギーの固有値方程式

が成り立つとし,エネルギーは下に有界なので固有値 E_n  n=0,1,2,\cdots  でラベルされるとする.
このとき完全系の式 \sum_n|{n}\rangle\langle{n}|=\hat{I}  を遷移振幅に挿入して

と変形する.
ここで \psi_n(x)=\langle{x|n}\rangle  はエネルギーの固有函数.
こうして遷移振幅はエネルギー固有値 E_n  と固有函数 \psi_n(x)  で展開される.
そして経路積分の結果の式を e^{\omega(t-t_0)}  について展開することで調和振動子のエネルギー固有値とそれに属する固有函数を求めることができる.
しかし実際問題として,調和振動子以外の一般のポテンシャルについての経路積分の評価は非常に困難であり,多くの場合に手に負えない.
経路積分は作り方より状態の時間変化と相性が良く,時間依存しない定常状態の問題は正準量子化の方が良い.
経路積分については散乱理論や摂動論で再び議論することにする.

Problems

\textsc{Problem1. }

自由粒子の場合の遷移振幅の経路積分を計算せよ.

\textsc{Solution. }

計算する積分は

まず x_1  積分に注目すると

同様にして x_2  積分に注目すると

となる.
x_2  積分以降は帰納的に次のように一般化される:

これを k=N-1  まで繰り返せば

となる.
N\delta t=t-t_0  なので N  には陽に依存しなくなり,経路積分の境界条件から

\textsc{Problem2. }

次の調和振動子の場合の遷移振幅の経路積分を計算せよ:

\textsc{Solution. }

経路積分の測度の定義に戻って

境界条件 \xi_0=\xi_N=0  があるので作用積分にもこれらの変数は現れてこないことに注意せよ.
表記の簡単のために

を導入すると

指数函数の中は二次形式なので N-1  次元ベクトル \boldsymbol{\xi}=(\xi_1,\cdots,\xi_{N-1})  を用いて

と書ける.ただし

とおいた.多変数の場合のGauss積分により

となる.
残る問題は行列式 \mathrm{det}\,A  を求めることである(この問題は力学の「振動のモード; 多体系」で扱ったのでここでは簡単に流れだけにする).
A  N-1  次の正方行列なので行列式を a_{N-1}=\mathrm{det}\,A  とおく.
余因子展開をすると漸化式

が得られる.この数列の一般項は

かつ a_1=2-\beta,\,a_2=\beta^2-4\beta+3  で与えられる.
いま \beta=(\omega\delta t)^2  N\to\infty  1  より十分小さいので

とおくことができる.すると一般項が簡潔に

と書ける.
さらに \varphi  の定義式を二次までのTaylor展開と見ると N\to\infty  では \varphi\to\omega\delta t  なので

と変形できる( N\delta t=t-t_0  ).
以上から求める積分は

極限の公式 \lim_{x\to 0}(\sin x/x)=1  より

を得る.

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