最小作用の原理

Prerequisite

物体が時刻 t_0  に位置 q(t_0)  にあってその後,時刻 t_1  には位置 q(t_1)  に観測されたとしよう.
物体はこの2点を結ぶ1つの軌道を描いたはずであるが,その軌道はどのように決まるのであろうか.
あるいは軌道に関する微分方程式の形はどのように決定されるのであろうか.
Newton力学が要請する運動方程式とは違ったやり方でこの問題を考えよう.

上述の問題設定に対して次のような量を定義する:

作用

これを系の作用 (action) といい,被積分函数 L  Lagrangianという.
作用は1つの函数 q=q(t)  から1つの実数 S[q(t)]  を与える広義の函数で汎函数とよばれるものである.

この作用に対して

最小作用の原理

物体のあらゆる軌道 q=q(t) のうち作用 S を最小にするような q(t) が実際に実現される軌道である.

と仮定しよう.これを最小作用の原理 (principle of least action) という.

S  が最小のとき, q(t)\mapsto q(t)+\delta q(t)  の変化に対して

である.これは普通の函数が極値を持つ条件に似ている.
ただし軌道の両端は固定しておく.すなわち,

とする.この条件ははじめの設定:粒子の始点と終点がわかっていてその途中の軌道が未知であるという問題設定からくる.

作用の変分は定義から,

変分の記号 \delta  は時間には関係ないから積分の中に入れることができてLagrangianの変分を計算することになる.変化分の1次までで,

したがって,

\delta\dot{q}(t)=\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\delta q(t)  であることに注意して,右辺第2項を部分積分すると,

軌道の両端は固定していて \delta q(t_0)=\delta q(t_1)=0  だったから後ろの項はおちる.結局任意の変分 \delta q(t)  に対して,

したがって和のそれぞれの項で,

Euler–Lagrange方程式

が成り立たなければならない.これをEuler–Lagrange方程式という.
粒子はこの方程式にしたがって q(t_0)  q(t_1)  のあいだを運動する.
われわれはここで運動方程式を導くような物理法則の根幹を作用に見いだした.
この最小作用の原理という方法は後の相対性理論,量子力学といった古典力学が破綻するような領域においても手がかりになる考え方である.

最小作用の原理といいながら実際に解いたのは S  の極値問題であるから S  は必ずしも最小ではなく厳密には現実の軌道 q(t)  に対して極小値になっている.
ただし極大にならないことはLagrangianの決定に際して取り除かれる.
このことはエネルギーに関して後述する.

最後にLagrangianの不定性について述べておこう.
運動方程式を満たす L  の他にLagrangian L'  があってその違いが座標と時間の函数の全微分であったとしよう.
つまり,

であるとき作用は,

右辺第2項の積分を実行すれば,

となるが後ろ2項は変分をとった際端点を固定する条件からおちる.
ゆえにこの2項はEuler–Lagrange方程式に影響しない.
それは物理法則あるいは粒子の軌道に影響しないということである.
したがってLagrangianには上記のような不定性が許される.

最小作用の原理” への2件のフィードバック

コメントを残す