時間依存しない正準変換

Prerequisite

Hamiltonianに対して変数変換

をしても方程式の形が不変であったとする.つまり変換した後のHamiltonian, \widetilde{H}(P,Q,t)  に対して,

が成り立つ( 1\leq i \leq N  )とき,その変換 (p,q)\mapsto(P,Q)  正準変換 (canonical transfomation) という.

この節では時間にあらわに依存しない正準変換のみを考える; P_i=P_i(p,q),\,Q_i=Q_i(p,q)
あとの節で一般の正準変換を議論する.
新しい変数の時間微分はPoisson括弧を用いて,

とかける. 逆変換 (P,Q)\mapsto(p,q)  が存在するとして元の正準変数を p_i=p_i(P,Q,t),\,q_i=q_i(P,Q,t)  と表せたとしよう.
すると微分の鎖法則から

Hamiltonianの微分で整理すると,

とまとめられる. ここでPoisson括弧について

新正準変数の基本Poisson括弧式

が成り立っていると仮定する.すなわち新しい変数 (P,\,Q)  について基本Poisson括弧式の値が保たれるとすると,

となる.ここでプライム '  は新変数 (P,\,Q)  で定義されたPoisson括弧

新正準変数で定義されたPoisson括弧

を意味する.
他方で P_i,\,Q_i  の時間微分は変換後の正準方程式を適用することで

とも書くことができる.
したがって時間に依存しない正準変換の下でHamiltonianは

となり単なる変数変換となる.

では逆に正準変換の下での基本Poisson括弧の値の不変性を示そう.時間に依存しないとき \widetilde{H}=H  なので正準方程式は

右辺は微分の鎖法則を用いた.元の変数の正準方程式より,

他方で時間微分に直接鎖法則を適用すると

2組の式を比較すると

が得られる.
これらを駆使して基本Poisson括弧を計算すると

ゆえに \{Q_i,\,P_j\}_{\mathrm{P}} = \delta_{ij}  が帰結される.
ただし2つ目の等号では右側の因子にだけ上の関係式を適用し,3つ目の等号では鎖法則を用いた.
残りの基本括弧式 \{Q_i,\,Q_j\}_{\mathrm{P}},\,\{P_i,\,P_j\}_{\mathrm{P}}  でも同様の計算で値が不変なことが示せる.

ところで基本Poisson括弧が不変なときPoisson括弧に関して重要な性質を示せる.
(p,q)\mapsto(P,Q)  において基本Poisson括弧式が不変ならば正準変数 (p,q)  の任意の函数 f,\,g  に対しても

すなわち変換 (p,q)\mapsto(P,Q)  に対して基本Poisson括弧の値が不変ならば任意の函数どうしのPoisson括弧の値も不変となる.

示すためにまず左辺は定義より

微分の鎖法則より,

であるから,これらを代入して,

基本Poisson括弧式が現れるようにまとめ直して,

1行目は基本Poisson括弧式からおちる.
2行目は \delta_{ij}  が現れるために残って,

となって任意の函数に対するPoisson括弧の値が不変性が示された.

以上の本節の議論から次の2つの重要な結論が得られた:

(時間依存しない)変換 (p,q)\mapsto(P,Q) が正準方程式を不変にする
\quad\Leftrightarrow\quad 基本Poisson括弧式が不変である.

(時間依存しない)変換 (p,q)\mapsto(P,Q) で基本Poisson括弧式が不変である
\quad\Rightarrow\quad 任意の函数 f,g のPoisson括弧が不変である .

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