二次形式の相対論的作用

特殊相対性理論における質点の作用は,

であった.
ここで \mathcal{A},\,\mathcal{B}  は始めと終わりの事象である.
さらに作用を書き換えて,

ここで u^{\mu}  は質点の四元速度, \tau  Minkowski空間内の軌道のパラメータである.
この作用は明らかに時空のLorentz変換,並進変換に対して不変であるので,Lorentz対称かつ並進対称である.
この2つの変換はまとめてPoincaré変換と呼ぶ.
Poincaré変換に加えてパラメータ \tau  の任意の取り替え \tau\mapsto \tau'=f(\tau)  のもとでも不変である.
ただし f  はなめらかな正則函数.

上記作用は根号を含んでいるため非線型であり解析のしやすさを考えるとこの根号は取り除かれることが望ましい.
そこで新たな補助変数 h(\tau)  を導入した,

という作用を考えてみよう.
力学変数は質点の軌道 x  と補助変数 h  の2つあり,それぞれ独立に変分を取ることができる.

h  についての変分をとると,

となる.
最小作用の原理から \delta_hS_P=0  ならば, \eta_{\mu\nu}u^{\mu}u^{\nu}=hm^2c^2  が満たされる.
この式を補助変数 h  について解くと, \sqrt{-h}=\sqrt{-\eta_{\mu\nu}u^{\mu}u^{\nu}}/mc  として補助変数を u^{\mu}  で表すことができる.
これを用いて作用 S_P  から補助変数を取り除くと,元の作用に一致することがわかる:

つまり2つの作用は運動方程式のレベルで等価である.

作用 S_P  のもつ対称性を見てみよう.
まず明らかにLorentz変換と時空の並進変換に対して不変でありPoincaré対称性を有している.

次にパラメータ \tau  を取り替える変換に対して, S_P  は対称でない.
たとえば \tau  をあらたに \tau'=f(\tau)  と変換するとJacobianの寄与だけ作用は変化する.
ただし f  は逆 f^{-1}  が存在し両方ともなめらかな函数(これを微分同相写像という).
そこでパラメータの変換に伴って補助場が

と変換することを要求すれば.Jacobianの寄与が吸収され作用 S_P  は不変となる(運動項の不変性も容易に確かめられる).
パラメータの取り替えの対称性を \mathrm{Diff}_1  対称性と呼ぶことにする.
以上2つの対称性,Poincaré対称性と \mathrm{Diff}_1  対称性を一次元作用 S_P  は有している.

補助場の物理的意味を考えてみよう.
補助場 h  に関する運動方程式から -h  が四元速度の大きさに等しいという解が得られた.
それを少し変形して,

と書いてみる.
すると右辺はMinkowski計量で測られた世界間隔であるが,左辺も h  を計量とする1次元の世界間隔とみなせる.
ただし \eta_{\mu\nu}  は定数なのに対し h  は曲線のパラメータに依存する.
実は h  は質点の世界線に定義された誘導計量 (induced metric) であり,世界線を一次元部分多様体とみなしたときのRiemann計量である.
計量は座標変換に伴って2階のテンソルのように変換する.
上で与えた座標変換に伴う補助場の変換は単に \mathrm{Diff}_1  対称性からの要求ではなく,誘導計量としての自然な変換規則と言える.
つまり世界線上の誘導計量を導入することで相対論的粒子の作用を基本変数について二次形式な作用に書き換えられたと言える.

ここでは0次元の質点の描く一次元の世界線を考えたが,たとえば一次元状の物体(ひも)の作用も面積に拡張したもので定義できる(南部-後藤作用として知られる).
そのときにもひもが描く「世界面」を二次元部分多様体とみなしてその上の誘導計量を導入できる.
この場合の二次形式化された作用はPolyakov作用として知られている.
二次元のPolyakov作用はさらにWeyl対称性と呼ばれる,誘導計量のスケール変換に対する対称性も有している.
この事実によりひもは質点よりも豊かな数学的構造を持つことが知られている.

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