Gibbsの自由エネルギー

~ QuantumAtsuo

Prerequisite

前節では等温過程においてHelmholtzの自由エネルギーを最小にするように平衡状態が実現されることを見た．
また外部からなされる仕事には下限が存在する．
この節ではさらに等温でかつ定圧の過程についてどのようなことが導かれるかをみていく．

等温定圧過程 \Gamma:\,\mathcal{A}\overset{\mathrm{T,P}}{\rightarrow}\mathcal{B} を考える．

等温過程では用いる熱浴は1つであるから T_i=T
さらに熱力学第一法則より

が成り立っている．
W は系になされる正味の仕事．
今定圧なので熱浴と系は圧力 P で平衡状態にある．
この状態で熱浴が系に仕事を行うとき，熱浴にとってはこの変化は微小であり平衡状態に影響がないとみなせる．
すなわち力学的仕事 W_m は準静的に実行されるとして熱浴が系になす仕事を

とかける．
ここで \delta V_0 は熱浴の体積変化であるが，全体系の体積は一定なので着目する系の体積は \delta V=-\delta V_0 だけ変化する．
力学的仕事 W_m 以外の（粒子数の増減や電磁場などによる）仕事を改めて W とおくと第一法則は

と変形できる．

以上から

ここで新たな物理量

Gibbsの自由エネルギー

を定義する．
S=S(T,P,N),\,V=V(T,P,N) は温度と圧力の式

をエントロピー S ，体積 V についてそれぞれ解いたものであり，内部エネルギーの変数 S,\,V に関するLegendre変換である．
この G をGibbsの自由エネルギーという．
Gibbsの自由エネルギーを用いて上の不等式は

と書ける．
等号成立は \Gamma が可逆過程のとき．
この不等式は等温定圧過程 \Gamma:\,\mathcal{A}\overset{\mathrm{T,P}}{\rightarrow}\mathcal{B} で系になされる（力学的以外の）仕事には下限があることを示している．
言い換えるとGibbsの自由エネルギーを増加させるとき最も仕事が少なくて済むのは可逆過程であり，不可逆過程を含む場合は余分に仕事が必要となると言える．

等温定圧環境と2つの部分系の平衡状態．

温度 T ，圧力 P の熱浴と温度と圧力が平衡状態にある部分系1と2を考える．
この2つの部分系の間で熱や仕事，粒子のやりとりを許したときに達成される平衡状態の条件について考える．
熱浴と部分系含めた全系に対してエントロピーは相加性より S_{\mathrm{tot}} = S+S_1+S_2 であり，エントロピー増大の法則より

が成立する．
相加性より U_{\mathrm{tot}} = U+U_1+U_2 かつ V_{\mathrm{tot}} = V+V_1+V_2 ．
熱浴は部分系に比べて十分大きいのでエントロピーは

と近似できる．
よって全エントロピーは

となる．
部分系どうしのやりとりの間で第1項は定数であるから，エントロピー増大の法則 \delta S_{\mathrm{tot}}\geq 0 ならば

となってGibbsの自由エネルギーは減少しなければならない．
平衡状態ではエントロピーが最大であるということを仮定すれば，

Gibbsの自由エネルギー最小の原理

等温定圧環境下の平衡状態ではGibbsの自由エネルギーは最小になる．

という主張が立てられる．
これをGibbsの自由エネルギー最小の原理という．

Gibbsの自由エネルギーの性質を調べていこう．
まずGibbsの自由エネルギーはLegendre変換により T,\,P,\,N を独立変数とする函数である．
全微分は，

一方で定義より \mathrm{d} G = \mathrm{d} U - \mathrm{d}(TS) + \mathrm{d}(PV) を整理すると

がわかる．
係数を比較して

がわかる．
T,P,N が独立変数であることからそれらの微分はどれも可換である．
このことから以下のMaxwellの関係式が成立する：

内部エネルギーが U=TS-PV+\mu N とかけることからGibbsの自由エネルギーは

と与えられる．
ただし G と N の示量性から \mu は N に依存しない； (\partial\mu/\partial N)_{T,P} = 0 ．
このことはGibbs–Duhemの関係式からもわかる．

Problems

\textsc{Problem1.}

次の関係式を示せ：

ここで H はエンタルピー， G はGibbsの自由エネルギー．

\textsc{Solution.}
Gibbsの自由エネルギーの定義 G=U-TS+PV=H-TS においてエントロピーをGibbs自由エネルギーの微分で置き換えて

よってエンタルピーは

\textsc{Problem2.}

次の関係式を示せ：

\textsc{Solution.}

G=H-TS の両辺を T,N 固定して P で微分すれば，

左辺は体積に等しく，右辺第2項にはMaxwellの関係式を適用して，

移項して整理すれば所期の結果を得る．

\textsc{Problem3.}

次の関係式を示せ：

\textsc{Solution.}

エンタルピーを温度と圧力の函数とみなしたとき定圧比熱の定義と前問の結果から，

ここでは問題に関係ないので粒子数は一定として \mathrm{d} N の項は省略した．
T,P の微分が可換であることから

が成り立つ．したがってMaxwellの関係式

が成立する．右辺の微分を計算すれば所期の結果を得る．

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