Prerequisite
ここまで平衡状態の内部エネルギー に対してLegendre変換を施すことで,Helmholtzの自由エネルギー ,エンタルピー ,Gibbsの自由エネルギー を定義してそれらの性質を調べてきた.
示量変数のみの函数としての内部エネルギーからLegendre変換で移り合う函数を総称して熱力学函数という.
形式的にLegendre変換すればさらに粒子数 と化学ポテンシャル を入れ替えた熱力学函数を考えることもできる.
統計力学で重要となるのが
で定義される函数でグランドポテンシャルという.
独立変数 からLegendre変換によって内部エネルギーを含めて 通りの熱力学函数を定義できる.
さらに平衡状態を記述する示量変数が 個ある場合 通りの熱力学函数を定義可能である.
そしてそれぞれの熱力学函数において 個のMaxwellの関係式が成立する.
こうした一般の熱力学函数ではその独立変数が何であったかが複雑になってくる.
たとえば定積比熱と定圧比熱はそれぞれ
という関係が成立している.
ただし両者に現れるエントロピーは函数としては別物であり,定積比熱においては ,定圧比熱においては の意味である.
この2つの比熱を比較するには熱力学変数どうしの依存性のちがいに注意する必要がある.
そこでこの節では熱力学関係式を形式的に扱えるようにJacobianの方法を紹介する.
Jacobianは積分の変数変換に伴う微分の因子のことであるがここでは熱力学に限定した形で話を進める.
個の示量変数 によって内部エネルギー が記述されている系を考える.
このとき示量変数それぞれに対して
によって示強変数 を定義する.
ここで は 以外の変数 を固定することを略記したものである.
内部エネルギーの微分形式は
と書くことができる.
を か のどちらかとして変数変換 によるJacobi行列は
で定義される.
このJacobi行列の行列式(Jacobian)を
と表記する.
2回続けた変数変換 をすることを考える.
これを とみなせばJacobi行列は微分の鎖法則により
となる.
右辺は行列の積の性質により
と分解できる.
2つの行列の積の行列式は と分解できることからJacobianについて
が成立する.
として逆変換 に対して積の性質を適用すれば,
を得る.
つまり逆変換のJacobianは元の変換のJacobianの逆数である.
行や列を入れ替えると符号が変わる行列式の性質から
などが任意の2つの変数 について成り立つ.
これは変換先 と を入れ替えても同様に符号が変わる.
番目の変数だけ と変換しそれ以外はそのままの変換のJacobianは
となる.
これは普通の偏微分である.
内部エネルギーの 番目の示量変数 に対してLegendre変換を施して新たな熱力学変数
を定義する.
ここで は を について解いたもの.
の微分形式は
となる.
したがって の導函数については
が成立する(ただし かつ ).
記号 は微分の際に 以外の示量変数と を固定することを意味する.
一般に内部エネルギーの引数のうちのいくつかをLegendre変換した熱力学函数 については
が成り立つ.ここで,
に対する任意の2変数の微分は可換であることからMaxwellの関係式
が成り立つことも容易にわかる.
熱力学函数 の とそれ以外の示量変数を固定したときの導函数を知りたいことがある.
たとえば定積比熱,エネルギー方程式などがそれである.
そのためには の関係式を について解いたものを に代入して の函数とみなすことから始める.
の微分形式に の微分形式
を代入して整理すれば
の定義やJacobianの性質を利用すれば
が得られる.
を の任意の函数 に置き換えても同様の計算により
が成立する.
Problems
次の一般のGibbs–Duhemの関係式を示せ:
内部エネルギーの微分形式は
内部エネルギーはその示量性から
が成立する.
両辺を で微分すれば
両辺を微分すると
以上から一般のGibbs–Duhemの関係式を得る.
次の関係式を示せ:
定圧比熱をエントロピーの温度微分で書けば
定積比熱に変数を揃えたいと考えて
第1項は定積比熱であり,第2項のエントロピーの圧力微分については
Maxwellの関係式より
以上から所期の結果を得る.
別解として偏微分の公式において, とすると,
第2項でMaxwellの関係式より
さらにJacobianの性質から
以上から
, とおいて両辺に をかければ所期の結果を得る.
次の関係式を示せ:
ここで は次で定義され比熱比,等温圧縮率,断熱圧縮率という量である:
比熱比をエントロピーの温度微分で書けば
Jacobianの性質から
が成立するので