Dirac方程式の一般解

自由なDirac方程式の一般解を求めよう.
Dirac方程式の解はKlein–Gordon方程式も満たすので,スピノルの各成分について平面波解,

と置ける.
ここでFourier成分 u_a(\boldsymbol{p}),\,v_a(\boldsymbol{p})  はDiracスピノルであり,


註)Klein–Gordon波動函数の運動量(波数)を \boldsymbol{k}  ,Dirac波動函数の運動量(波数)を \boldsymbol{p}  と書きわけるのが慣例である.
場の量子論では \hbar=1  の単位系をとるのが普通で運動量と波数は同じ量である.


p^{\mu}  は四元波数ベクトル,

であり分散関係

を満たす.
この \psi_a(x)  がDirac方程式を満たすべきということから,

微分演算子は平面波にのみ作用して波数 p^{\mu}  を下ろしてくる.
よって各平面波ごとに,

が成り立つ.
この方程式を解くためにまず静止系 \boldsymbol{p}=\boldsymbol{0}  で考えよう.
静止系では \hbar p^{\mu}=(mc,\,\boldsymbol{0})  となる.
波数空間におけるDirac方程式は,

という行列の固有値問題となる.
ただし I_4  4\times4  の単位行列.
すなわちスピノル u(\boldsymbol{0})  \gamma^0  の固有値 +1  に属する固有ベクトルであり, v(\boldsymbol{0})  は固有値 -1  に属する固有ベクトルである.


註)
ここでスピノルのことを固有「ベクトル」と呼んでいる.
スピノルとはDirac代数を満たすものであるが行列表示をとっているので,数学的には線型代数と同じ扱いができる.
ただしLorentz変換に対するふるまいはベクトルと異なることに注意せよ.


Weyl表現で具体的に成分を表せば固有ベクトルを選ぶことができる.
標準的には,

ととってくる.
\sqrt{m}  の因子は規格化定数であとの都合で付けられている.
この取り方は実はスピン 1/2  の表現になっていて,Dirac方程式の解は必ずスピン 1/2  の粒子を表すことを示している.

これらから一般の \boldsymbol{p}  に対する u_s(\boldsymbol{p}),\,v_s(\boldsymbol{p}),\,(s=\pm)  を得るためには速度 \hbar\boldsymbol{p}/m  の系にLorentz変換すれば良い.
前節の結果からDiracスピノルのLorentz変換は生成子 \hat{S}^{\mu\nu}  によって

と生成される.
このうち \eta=\mathrm{arctanh}\,[c|\boldsymbol{p}|/\omega_{\boldsymbol{p}}]  をラピディティとするLorentz変換は \hat{K}^{i}=-i\hat{S}^{i0}  によって生成されて

と書くことができる(問題参照).
ここで \boldsymbol{e}_{\boldsymbol{p}}=\boldsymbol{p}/|\boldsymbol{p}|  は波数(運動量)の単位方向ベクトル.
具体的にWeyl表現では

と表せる.

こうして自由なDirac方程式の一般解はこれら4つのスピノル u_s(\boldsymbol{p}),\,v_s(\boldsymbol{p})  のすべての波数 \boldsymbol{p}  s=\pm  の重ね合わせで表すことができて

a_s(\boldsymbol{p}),\,b_s(\boldsymbol{p})  はスピノルではない定数係数.
Dirac共役の一般解は

ここで \bar{u}_s(\boldsymbol{p})=u_s^{\dagger}\gamma^0,\,\bar{v}_s(\boldsymbol{p})=v_s^{\dagger}\gamma^0
u_s(\boldsymbol{p}),\,v_s(\boldsymbol{p})  が満たす直交関係やスピン平均の計算などは場の量子論の章で詳細に論じることにする.
この節ではすぐ後の議論に必要な部分だけを見るにとどめる.

まずDirac共役 \bar{u}_s(\boldsymbol{p})  については

ここでLoretzブーストの生成子のHermite共役 K_i^{\dagger}  について

なので K_i^{\dagger}\gamma^0=\gamma^0K_i  が成り立つ.
これから

となる( \bar{v}_s(\boldsymbol{p})  についても同様).
この結果はLorentz変換性がもとの量と逆になるようにDirac共役が定義されていることからも明らかである.

スピンの添字 s  に関する直交関係として

が成立する.
これらを示すには \bar{u}_{s'}(\boldsymbol{p})u_s(\boldsymbol{p}) = \bar{u}_{s'}(\boldsymbol{0})u_s(\boldsymbol{0})  であることと,静止系における直交関係(そうなるように今は選んでいる)を適用すればすぐにわかる.
つまり任意の慣性系においてこれらの直交関係は保たれる.

Problem

\textsc{Problem1.}

四元運動量が (mc/\hbar,\boldsymbol{p}) の静止系から任意の運動量の系 (\omega_{\boldsymbol{p}},\boldsymbol{p}) へのLorentz変換のラピディティが \eta=\mathrm{arctanh}\,[c|\boldsymbol{p}|/\omega_{\boldsymbol{p}}] で生成されることを示せ.

\textsc{Solution.}

2つの系の間のLorentzブースト \Lambda

とおく.
ここで \lambda_0=\Lambda^0{}_0,\,\lambda_i=\Lambda^i{}_0  とおいた.
つまり

で与えられる( \boldsymbol{e}_{\boldsymbol{p}}=\boldsymbol{p}/|\boldsymbol{p}|  ).
他方で任意のLorentzブーストは

を用いて \Lambda = e^{J}  と書ける(特殊相対性理論の章の「Lorentz変換のLie代数」の節を参照せよ).
Taylor展開を計算して J  の偶数冪は J^{2n}=\eta^{2(n-1)}J^2  ,奇数冪は J^{2n+1}=\eta^{2n}J  となるので,

となる( \eta=|\boldsymbol{\eta}|  \boldsymbol{e}_{\boldsymbol{\eta}}=\boldsymbol{\eta}/\eta  ).
以上の結果を比較すれば

がわかる.
よってとりも直さず \eta=\mathrm{arctanh}\,[c|\boldsymbol{p}|/\omega_{\boldsymbol{p}}]  である.

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