相対論的量子力学のU(1)ゲージ理論

相対論的量子力学においても波動函数という解釈を続けるならばKlein–Gordon方程式あるいはDirac方程式ゲージ対称性を課してゲージ場との相互作用を導入できる.
この節で導入するのも \mathrm{U}(1)  ゲージ対称性であり,対応するゲージ場は電磁場を表す.
電磁場は相対性理論の中で無矛盾となる.
ただしこの節においても電磁場は古典場として扱い量子化しない.

Klein–Gorndon波動函数,Dirac波動函数をそれぞれ \varphi(x),\,\psi_a(x)  \mathrm{U}(1)  ゲージ場を A_{\mu}(x)  とするとそれぞれの \mathrm{U}(1)  ゲージ変換は,

と書かれる.
ここで a  はスピノルの足, \mu  はLorentzベクトルの足であり \chi(x)  は任意のスカラー函数, q,e  はそれぞれの波動函数で記述される粒子のもつ電荷である.
\mathrm{U}(1)  ゲージに対する共変微分演算子を,

と定義すれば波動函数の共変微分は波動函数と同じゲージ変換性をもつ.
したがって微分を共変微分に置き換えたKlein–Gordon方程式,Dirac方程式,

\mathrm{U}(1)  ゲージ不変となる.

電磁場と粒子の相互作用を見るために共変微分の定義を代入する.
まずKlein–Gordon方程式からは,

が現れ,Dirac方程式からは,

が現れる.

零質量のDirac方程式では \mathrm{U}(1)  対称性以外にもう一つおもしろい対称性をもっている.
Weyl表現の利点はガンマ行列を \sigma^{\mu}=(I_2,\boldsymbol{\sigma})  \bar{\sigma}^{\mu}=(I_2,-\boldsymbol{\sigma})  によって

とまとめて表記できることである.
Diracスピノルの4成分を2つの2成分スピノルに \psi=(\xi,\,\eta)  として分割すれば,2つの方程式

が得られる.
ここで導入した2成分スピノルはWeylスピノルと呼ばれるもので,場の量子論においてその性質を詳しく述べることにする.
零質量 m=0  のDirac方程式は独立なWeylスピノルについての方程式,

に分離する.
これらの方程式をWeyl方程式と呼ぶ.

ガンマ行列の積から

を定義する.
どのガンマ行列も反可換であることから反対称化して

と変形できる.
ただしLevi-Civita記号は \epsilon_{0123}=-1  ととっていることに注意せよ(上付きの方で \epsilon^{0123}=+1  としているため).
またWeyl表現において単純な行列の計算から

となり対角化されていることがわかる.
\gamma_5  がWeylスピノルに作用すると \gamma_5\psi=(-\xi, +\eta)  となり, \xi  は固有値 -1  \eta  は固有値 +1  を持つことがわかる.
Diracスピノルに対して大域的 \mathrm{U}(1)  変換にこの \gamma_5  を挿入した変換

を施してみよう.
Weylスピノルにとってみればこの変換は

という変換になる.
すなわち2つのWeylスピノルで逆の位相変換を施している.
この変換を軸性U(1)変換とかカイラル変換 (chiral transformation) という.

カイラル変換のもとで質量が有限のDirac方程式は不変ではないが零質量のときは不変で,カイラル対称性を持つ.
カイラル対称性を持つ理論ではどのようにゲージ場を導入すればよいだろうか.
つまりこの理論においては \mathrm{U}(1)  変換とカイラル変換の両方を局所化して,それに対するゲージ不変性を要求できる.
たとえば2つの実数 \alpha,\,\beta  に対して

という変換を考えることもできる.
カイラル変換で \gamma_5  があってもWeylスピノルで見ると同じ処方が可能で普通の微分を共変微分に置き換えるだけでよい.
この中でも特に \xi  の方だけにゲージ原理を要求し, \eta  の方には要求しないということもできる.
これは \alpha=\theta/2, \beta=-\theta/2  とおくと実現できて

Weylスピノルでは

この \theta  を局所化して \theta(x)  とし,微分の項が対称性を保つように微分を再定義する.
したがって \xi  の方は共変微分に置き換わり, \eta  の方は普通の微分のままである.
つまりWeyl方程式は

となる.
Dirac方程式においては共変微分として

を採用すればよい.
A_{\mu}(x)  は通常のゲージ変換性をもつ.
(I_4-\gamma_5)/2  \xi  成分への射影になっていて, \xi  だけにゲージ場 A_{\mu}  と結合した項が現れて相互作用する.
したがってカイラル対称性を持つ理論に対してどのようにゲージ場を導入するか(カイラルゲージ理論)は現実の粒子がどのような相互作用をするかに依存して決まる.
このような機構はニュートリノの弱い相互作用の理論を構築する際に重要となる.

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