非慣性系の運動方程式

慣性基準系Bobと非慣性基準系Alice

Newtonの運動方程式は慣性基準系にいる観測者に基づいていた.
慣性基準系から見た位置 \boldsymbol{r}  にある質点のNewton方程式は,

とかける.
ここで \boldsymbol{F}  は質点に働く力の合力.
慣性基準系の観測者Bobから見て,別の観測者Aliceは加速度運動したりくるくると回転運動したりしているとする.
すなわちAliceはBobに対して非慣性的運動をしている.
Aliceから質点 \boldsymbol{r}  を観測するとき,運動方程式はどのように書けるだろうか.
Aliceのような基準系は非慣性基準系という.

Bobから見た質点の位置ベクトルは基本ベクトル \boldsymbol{e}_x,\,\boldsymbol{e}_y,\,\boldsymbol{e}_z  を用いて \boldsymbol{r}=x\boldsymbol{e}_x+y\boldsymbol{e}_y+z\boldsymbol{e}_z  と展開できる.
同じように非慣性系の基本ベクトルを \boldsymbol{e}_x',\,\boldsymbol{e}_y',\,\boldsymbol{e}_z'  とすると \boldsymbol{r}'=x'\boldsymbol{e}_x'+y'\boldsymbol{e}_y'+z'\boldsymbol{e}_z'  と展開できる.
O  の基本ベクトルの向きは時間によらないが,Aliceの基本ベクトルの方は非慣性運動に伴って向きを変える.
初めの時刻 t=0  で両組みは一致していたとして,その後の任意の時刻での両組みの間の関係を求めよう.

微小回転ベクトルと基本ベクトルの変位

どんな回転もある軸のまわりの回転で達成できる(Eulerの定理).
いま微小な時間の間に \delta\boldsymbol{\phi}  の方向のまわりに角度 |\delta\boldsymbol{\phi}|=:\delta\phi  だけ回転したとする.
するとAliceの基本ベクトル \boldsymbol{e}_i'  \delta\boldsymbol{e}_i'  だけ変位する.
\delta\boldsymbol{\phi}  \boldsymbol{e}_i'  のなす角を \theta  とすると \delta e_i'=\delta\phi e_i'\sin\theta=|\delta\boldsymbol{\phi}\times\boldsymbol{e}_i'|  を満たす.
2つのベクトル \delta\boldsymbol{e}_i'  \boldsymbol{e}_i'\times\delta\boldsymbol{\phi}  は向きも同じはずだからこの2つのベクトルは一致して \delta\boldsymbol{e}_i'=\delta\boldsymbol{\phi}\times\boldsymbol{e}_i'
あるいは

\boldsymbol{\omega}  は回転軸に平行なベクトルであり角速度ベクトルという.
Aliceから見た質点の位置ベクトルの時間微分は,

さらにもう一度時間微分すれば,

ここで \boldsymbol{a}'=\sum_ia_i'\boldsymbol{e}_i',\,\boldsymbol{v}'=\sum_iv_i'\boldsymbol{e}_i'  はそれぞれ加速度ベクトルと速度ベクトルであるから,

とまとめられる.
Aliceから見た加速度ベクトルは位置ベクトルの単なる微分ではなくて,各成分の2階微分をAliceの基本ベクトルで表示したものであることに注意せよ.
Bobから見た質点の位置ベクトル \boldsymbol{r}  \boldsymbol{r}=\boldsymbol{r}'+\boldsymbol{R}  の関係で結ばれるとする.
\boldsymbol{R}  はBobから見たAliceの位置ベクトルである.
Bobから見た質点の運動方程式 m\ddot{\boldsymbol{r}}=\boldsymbol{F}  から,

すなわちAliceから見た運動方程式

が得られる.
右辺の第2項はAliceの並進運動による慣性力であり第3項以降はAliceの回転運動からの寄与である.
特に第5項はAliceの回転による遠心力である.
そのことを理解するためにまず m\boldsymbol{\omega}\times(\boldsymbol{\omega}\times\boldsymbol{r}')=(\boldsymbol{r}'\cdot\boldsymbol{\omega})\boldsymbol{\omega}-\omega^2\boldsymbol{r}'  と変形する.
\boldsymbol{r}'  \boldsymbol{\omega}  に垂直な成分と平行な成分にわけて \boldsymbol{r}'=\boldsymbol{r}'_{\perp}+\boldsymbol{r}'_{\parallel}  とすると (\boldsymbol{r}'_{\parallel}\cdot\boldsymbol{\omega})\boldsymbol{\omega}-\omega^2\boldsymbol{r}'_{\parallel}+\omega^2\boldsymbol{r}'_{\perp}  . はじめの2項は打ち消しあうことがわかるから結局 m\omega^2\boldsymbol{r}'_{\perp}  となる.
明らかにこの大きさは中心力場のときなどで現れた遠心力と同じである.
遠心力は位置ベクトルと回転軸を含む平面にあってかつ回転軸に直交する向きをもつ.

第3項は回転軸と速度に直交する向きに働く見かけの力である.
この力をCoriolis力という.
日常でCoriolis力はたとえば地球の自転によって現れてくる.
地球の赤道側から北極側へ向かうときわれわれは東向きにこの力を感じる.
逆に言えば地上でCoriolis力の存在を証明することは地球が自転していることの証明になるのである.
これを実際に証明して見せたのがFoucaultである.
詳細は後の節で述べることする.

そして第4項は角加速度と位置ベクトルに直交する向きに働く力である.
たいていの場合に角加速度の影響は小さいとして無視することが多い.

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