この節では前節の一般論を踏まえて二体系の典型的なHamiltonianの正準量子化を見てみよう.
まずは簡単のために異種粒子 を仮定する.
相互作用のみをする二体系の古典Hamiltonianとして
を考える.
通常の正準量子化の手続きに従って
を仮定する.
は粒子のラベル, は空間ベクトルのラベル.
二体系の正規直交完全系として をとってくる.
任意の二体系の状態は
と展開できる.
ここで .
Schrödinger方程式は
左から を作用して座標表示して
重心座標と相対座標への変数変換
を施すと,力学によれば共役な運動量は
で定義される.
ここで は全質量.
他方でLaplacianはこの変数変換により
となる(問題参照).
ここで は換算質量, はそれぞれ重心座標,相対座標のLaplacian.
よって重心座標,相対座標で書かれた二体系のSchrödinger方程式は,
定常状態を仮定して時間依存しないSchrödinger方程式 を考えよう.
座標表示では
波動函数を の形に仮定すると変数分離形
に変形できる.
左辺は重心座標のみに依存し,右辺は相対座標のみ依存するのでこの全体は定数 とおける.
そして重心座標と相対座標に関する2つの定常Schrödinger方程式を得ることができる:
ここでエネルギー固有値は
を満たす.
こうして古典力学のときと同じように量子力学においても二体系の運動方程式は重心座標と相対座標に分離して議論できることがわかった.
次に同種粒子の場合 を考えよう.
このとき .
二体系の波動函数 は粒子の統計性に応じて対称化または反対称化されなければならない.
対称化された波動函数は
反対称化された波動函数は
とかける.
は規格化因子.
粒子の入れ替えは座標の入れ替え である.
これに対して重心座標と相対座標は
と変換される.
つまり重心座標は不変だが相対座標の符号が反転する.
重心座標に関する定常Schrödinger方程式は異種粒子の場合と同じである.
このためbosonとfermionによる統計性のちがいは相対座標の波動函数 に引き継がれることになる.
相対座標は符号が反転するが今のHamiltonianではLaplacianもポテンシャルも不変なので方程式は影響を受けない.
さらにスピン自由度も考慮する.
一般のスピン自由度 を考える.
このとき任意の1粒子の状態ベクトルは
と展開できる.
註)スピン のときは だったので2成分のベクトルと同一視していた.
二体系はこの1粒子状態のテンソル積であり
と展開できる.
同じように変数分離
をする.
重心座標に関してはスピン自由度を考慮しない場合と同様である.
また粒子の入れ替えに関しても不変である.
相対座標にはスピン自由度を考慮している.
さらにスピンと相対座標を分離して
としよう.
粒子の入れ替えは今度は座標とスピン自由度を同時に入れ替える変換である.
この入れ替えに関して
と変換する.
bosonの場合 は偶函数であるので と の偶奇が一致しなければならない.
fermionの場合は反対に と の偶奇は異なっている必要がある.
具体的な波動函数についてはスピノル波動函数の表現論の節でスピン の粒子に関して議論することにしよう.
Problem
を示せ.
重心・相対座標への座標変換
に対して勾配は微分の鎖法則により
粒子 についても同様に
したがってLaplacianは
重心座標,相対座標のLaplacian
を導入すればあとは容易な計算によって所期の式が得られる.