Poisson括弧

Prerequisite

任意函数 f(p,q,t),\,g(p,q,t)  に対して次のような記号を定義する:

Poisson括弧

これをPoisson括弧という.
任意の函数 f(p,q,t)  の時間微分をとってみると,

正準方程式から,

したがってPoisson括弧の定義より,

となる.
すると函数 f(p,q,t)  が保存量となるための条件は,

とかける.
特に f  が時間の陽な依存性を持たない場合には,

である.
f=q_i  または f=p_i  のときには,

が成り立つ.
これは正準方程式の別の表現である.

ではPoisson括弧の満たす性質を調べていこう.
Poisson括弧は定義から明らかに次を満たすことがわかる:

ここで c  p,\,q  によらない定数.
また定義は微分を含むのでその線型性とLeibniz則から,

が成り立つ.さらにJacobi恒等式

Jacobi恒等式

が成立する.
これについては証明をしておこう.
そのためにPoisson括弧の別の表記を導入する.
q=(q_1,\cdots,q_{N}),\,p=(p_1,\cdots,p_{N})  に対して 2N  個の成分を持つベクトル,

\xi=(\xi_1,\cdots,\xi_{2N})=(q_1,\cdots,q_{N},p_1,\cdots,p_{N}),

を定義するとPoisson括弧は,

ここで \omega_{ij}  は,

成分を行列にしてかけば,

以下の議論では同じ添え字が現れたときには 1,\cdots,6N  まで和をとるものとして \Sigma  を省略し,偏微分も \partial_i = \partial/\partial\xi_i  と簡略化して \{f,\,g\}_{\mathrm{P}}=\omega_{ij}(\partial_if)(\partial_jg)  とかく.
この記法でJacobi恒等式の左辺の第1項を書き換えると,

微分を計算して展開すれば,

となる.第1項を G_1  ,第2項を H_1  とおいておく.Jacobi恒等式左辺の残りの2項についても同様の計算から,

ここで H_1+H_2  に注目すると,

和をとっている添え字は他の和をとっている添え字と入れ替えてもよい.そこで第2項で i\rightarrow k,\,k\rightarrow j,\,j\rightarrow l,\,l\rightarrow i  と順ぐりに添え字を入れ替えると,

となって, H_1+H_2=0  となる.他の組み合わせ F_2+F_3,\,G_3+G_1  でも同様にして0に等しいことがわかる.以上よりJacobi恒等式が示された.

Poisson括弧に座標,運動量を入れてみると,

さらに重要な場合として,

基本Poisson括弧式

が成り立つ.これらを基本Poisson括弧式という.Poisson括弧は正準変数が満たすべき基本的な式となる.また量子力学へと移行する際の手がかりにもなる.

最後にPoissonの定理について述べておこう.

Poissonの定理

函数 f(p,q,t),\,g(p,q,t) が時間によらない保存量としよう.このとき f,g からつくられるPoisson括弧 \{f,\,g\}_{\mathrm{P}} 保存量となる.

時間微分をとると,

第1項の計算をすすめよう.定義を代入して,

時間微分と正準変数による微分は交換できるから積の微分より,

すなわち,

第2項についてはJacobi恒等式より,

以上のことから,

時間の全微分で書けて,

f,g  が保存量ならば時間による全微分は0に等しい.したがって次のことが導かれる:

すなわちPoissonの定理の主張が示された.

例として角運動量をとってみよう.もし角運動量の x,\,y  成分 M_x,\,M_y  が保存量であることがわかったとする.するとPoissonの定理から \{M_x,\,M_y\}_{\mathrm{P}}  も保存量である.この量は具体的に計算すると,

M_x=yp_z-zp_y,\,M_y=zp_x-xp_z  だから M_x  x,p_x  微分, M_y  y,p_y  微分は消える.結局 z,p_z  微分の項だけが生き残って,

したがって,

つまり角運動量の z  成分も保存量となる.この関係は他の組み合わせでも同様であり,

が成り立つ.

Problems

\textsc{Problem1. }

角運動量と正準変数のPoisson括弧式を計算せよ: \{q_i,\,M_j\}_{\mathrm{P}},\,\{p_i,\,M_j\}_{\mathrm{P}}

\textsc{Solution. }

角運動量は定義より M_j=\sum_{k,l}\epsilon_{jkl}q_kp_l  .これを代入してLeibniz則を用いれば,

基本Poisson括弧式より,

が得られる.

\textsc{Problem2. }

角運動量テンソル M_{jk}:=q_jp_k-p_jq_k と正準変数のPoisson括弧式を計算せよ: \{q_i,\,M_{jk}\}_{\mathrm{P}},\,\{p_i,\,M_{jk}\}_{\mathrm{P}}

\textsc{Solution. }

角運動量テンソルの定義を代入しLeibniz則を用いれば,

基本Poisson括弧式より,

が得られる.

\textsc{Problem3. }

角運動量テンソル M_{ij}:=q_ip_j-p_iq_j どうしのPoisson括弧式を計算せよ: \{M_{ij},\,M_{kl}\}_{\mathrm{P}} .

\textsc{Solution. }

1つ目の角運動量テンソルに定義を代入しLeibniz則を用いれば,

前問の結果を使うと,

Kroneckerのデルタで添字 n  を消去して整理すると,

が得られる.

\textsc{Problem4. }

次のように各項を書き換えてPoisson括弧のJacobi恒等式を示せ:3つの函数 f,g,h f^1,f^2,f^3 として,

ただし b,c=1,2,3

\textsc{Solution. }

上述の表記ではJacobi恒等式の左辺は,

微分を展開して,

\epsilon_{abc}  は完全反対称である一方,第2項と第3項の1階微分の2つの因子は対称であるのでそれぞれ0に等しい.
また第4項で a\rightarrow c,\,c\rightarrow b,\,b\rightarrow a  と順ぐりに添え字の入れ替えを行えば,第1項と打ち消しあう.
したがってJacobi恒等式がふたたび示された.

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