一次元調和振動子

Prerequisite

正準量子化の例として一次元調和振動子の系を取り上げる.
まずわれわれは調和振動子の問題をまったく表示に頼らずに考察する.
そのあとで座標表示をとって具体的な表式を得ることにする.

まず古典的な一次元調和振動子Hamiltonianは,

正準量子化を行って,Hamiltonianを

と正準量子化する.
正準交換関係は [\hat{x},\hat{p}]=i\hbar  である.

Hamiltonianは \hat{x}  \hat{p}  について対称な形をしている.
そこでその対称性をわかりやすくするためにまず演算子の無次元化を行う.
すなわち,

とおく.
係数の 1/\sqrt{2}  は後の計算の簡単のためにある.
Hamiltonianは,

となる.
交換子も無次元となり, [\hat{X},\hat{P}]=i/2  など.

次に新たな演算子として,

を定義する.
これらは生成・消滅演算子 (creation/annihilation operator) とよばれる( \hat{a}  の方が消滅演算子, \hat{a}^{\dagger}  が生成演算子).
その交換関係は,

となっている.
この演算子を用いると,

でありHamiltonianを書き換えると,

この式を用いてHamiltonianと生成・消滅演算子との交換関係が求まる.

となる.

では準備が完了したのでエネルギーの固有値問題を解くことにしよう.
束縛状態ではエネルギー固有値は離散化されかつ縮退が存在しない(後の節で示すがここでは事実として認める)ので,整数のラベル n  を用いて

とおける.
この固有ベクトル |{n}\rangle  に対して,生成・消滅演算子を1回作用させたものを考える.
交換関係から次がわかる:

状態ベクトル \hat{a}|{n}\rangle,\,\hat{a}^{\dagger}|{n}\rangle  \hat{H}  の固有ベクトルであり,その属する固有値はそれぞれ E_n-\hbar\omega,\,E_n+\hbar\omega  である.
言い換えると \hat{a}  は固有状態の固有値を \hbar\omega  だけ消滅する演算子, \hat{a}^{\dagger}  は反対に生成する演算子ということがわかる.

内積の正定値性から,

内積の非退化性から等号の成立は

のときのみで,エネルギー固有値は E_0=\hbar\omega/2  である; \hat{H}|{0}\rangle=(\hbar\omega/2)|{0}\rangle
\hat{a}  が固有値を \hbar\omega  下げる演算子であったが,それには下限 \hbar\omega/2  が存在しこれ以上は下げられないことを意味する.
それゆえ等号が成立するときの状態 |{0}\rangle  は最小エネルギーの状態である.
よってこの |{0}\rangle  を調和振動子の系の基底状態 (ground state) という.

議論を簡単にするために基底状態のエネルギー固有値を差し引いた無次元の演算子

を定義し固有値を \hat{N}|{n}\rangle=\nu_n|{n}\rangle  とする.
これを用いるとHamiltonianは \hat{H}=\hbar\omega(\hat{N}+1/2)  とかける.
基底状態では, \hat{N}|{0}\rangle=0  より \nu_0=0  である.
Hamiltonianの交換関係などから \hat{N}\hat{a}^{\dagger}|{n}\rangle=(\nu_n+1)|{n}\rangle  となる.
つまり \hat{a}^{\dagger}  \hat{N}  の固有値を1つあげる.
n-1  まで交換関係 [\hat{N},(\hat{a}^{\dagger})^{n-1}]=(\hat{a}^{\dagger})^{n-1}(\hat{N}+n-1)  を仮定すると,Leibniz則より

よって帰納法から任意の n  [\hat{N},(\hat{a}^{\dagger})^{n}]=(\hat{a}^{\dagger})^{n}(\hat{N}+n)  が成立する.
するとこの交換関係から,

つまり任意の正整数 n  について n  回生成演算子が作用した状態ベクトルは固有値 \nu_n=n  に属している.
そこで

とおこう( \alpha  は規格化定数).
規格化条件よりすべての固有状態は規格直交化されなければならないのでまず \langle{0|0}\rangle=1  を課す.
次に先ほどの交換関係などから |{n}\rangle  の大きさを計算していくと,

すなわち規格化定数は |\alpha|=1/\sqrt{n!}  とすればよい.
結局,任意のエネルギー固有状態は基底状態から生成されて,

ただし位相因子を1に選んだ.
また各固有状態の属する固有値は,

こうして調和振動子の固有値問題は生成消滅演算子とその交換関係を駆使して解くことができた.

最後に座標表示をとってエネルギー固有状態を波動函数の形で表しておこう.

ただし \psi_n(x) = \langle{x|n}\rangle
まず基底状態から求める.
\hat{a}|{0}\rangle=0  \hat{a}  の定義を代入して x  表示をとれば,

この微分方程式を解くと,

規格化条件より,

ゆえに |C_0| = (m\omega/\pi\hbar)^{1/4}  であり,位相因子を 1  になるように選べば,

これが基底状態の波動函数である.

次に,第 n  励起状態の波動函数は基底状態から生成されて,

無次元の変数 \xi=\sqrt{m\omega/\hbar}x  を導入すると,

ここで任意の函数 f(\xi)  に対して,

が成立する.
そのことを用いるため,

とする.
微分演算子 (\xi-\mathrm{d}/\mathrm{d} \xi)  の間に e^{-\xi^2/2}e^{+\xi^2/2}  を挟めば上式が n  回適用できて,

となる.
H_n(\xi)  Hermite多項式と呼ばれる.
いくつかの n  で具体形を与えておこう:

最後に波動函数を与えたがそれよりも重要なことは生成・消滅演算子までの交換関係を用いた議論である.
調和振動子のこの計算手法は物性や素粒子の理論において非常に重要になっていく.
もしHamiltonianが一般のポテンシャル V(x)  をもっていても,古典力学の振動論のときと同じくエネルギーの極小点まわりの微小振動を考える限りは調和振動で議論できる.
またもし調和振動からずれる効果を取り入れたとしても,それが小さい影響であれば後に述べる摂動論を用いて調和振動に基づいて計算ができる.

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